相馬に“夢”を植えたJリーガーの活動 8人の思いが込もった手作りのイベント

清水英斗

FIFA・JFA支援の相馬市光陽サッカー場

FIFA・JFAの支援により芝のコートを整備した相馬市光陽サッカー場。地元スポーツの活性化など期待は大きい 【浅野里美】

 また、会場となった施設「相馬市光陽(こうよう)サッカー場」についても触れておかなければならないだろう。被災沿岸地域に対するFIFA(国際サッカー連盟)とJFA(日本サッカー協会)の支援事業として、すでに完成していた宮城県のMFA松島フットボールセンター、岩手県の釜石球技場松原グラウンドに続き、福島県でリニューアルオープンされたのが、相馬市光陽サッカー場だ。

 それ以前にもサッカー場として存在はしていたが、震災によってピッチが海水をかぶり、駐車場も冠水。利用者には放射線への不安から、芝の全面張り替えが要望されていたが、復興事業を優先する事情から先送りになっていたそうだ。しかし、徐々に復興が、未来を見据えたフェーズへと移行する中で、子どもたちが前を向くための活力、未来へのエネルギーとして、再びサッカー場の必要性が叫ばれるようになった。

 そこにFIFAやJFAから支援の申し出があり、相馬市はFIFAの支援を受けて天然芝コートを3面、さらにJFAやtotoの助成金から人工芝コート2面を整備。新たな相馬市光陽サッカー場としてキックオフした。今年中には、ナイター設備やクラブハウスも作られる予定とのことだ。

 相馬市は東北地方ではあるが、太平洋に面しているため、1年を通してあまり雪が降らない。そのため福島県の他地域、あるいは山形県などの豪雪地域から来る利用者も多いそうだ。地元のスポーツ活性化はもちろんのこと、公式戦や合宿など、サッカー愛好家が集まる新たな相馬の拠点として、福島活性の一助となる期待も大きい。

 そして、サッカーは媒体。あらゆるものとコラボレーションすることができる。FIFAが行う支援事業に関して言うと、例えばアフリカなど貧困地域に対する支援として、サッカー、医療、教育の3つを柱としたフットボールセンターを各国に立ち上げている。これは現地における社会問題を、サッカーを通して解決に導こうとする取り組みだ。サッカーを学びに来た子どもたちは、生活に必要な教育や医療サービスを受けることができる。

 このような観点で言えば今後、福島県、あるいは相馬市に必要とされるものは何だろうか? もし、グローバルに働くことができる未来の人材育成とするなら、例えばクラブハウスに英会話教室を併設したり、外国人のサッカー指導者を招聘(しょうへい)するなど、サッカーのグローバル性を生かした教育的な取り組みも面白いかもしれない。

 アイデア次第で、社会とサッカーを連結する多角的なアプローチはどんどん広がっていくはず。このサッカー場に、福島の夢を見たい。

他のJリーガーにも呼びかけていきたい

選手たちはこの活動を続けたいと考えている。今後は他のJリーガーにも呼びかけていく予定だ 【浅野里美】

 今回参加した8人のJリーガーは、前日のうちに相馬市に入り、市役所や仮設住宅など、被災地の現状を見聞きして回った。選手たちは、その経験を次のように語っている。

「自分で足を運ぼうとすると、きっかけやエネルギーがいるけど、行きたいとは思っていました。それと、やっぱり子どもが好きなので、一緒に楽しめるならと。JFLのときに一度、仙台の方にバスで行ったことはあったけど、福島は初めてでした。復興は進んでいるけど、がれきや仮設住宅も見させていただいて、3年経ってもまだまだなところもあると感じました」(古部健太)

「サッカーでみんな元気に――と震災があってから、どのチームも言っていることなんですけど、現地に来て実際にやることで感じる部分はありましたし、これからもっと力になれればと思います」(西弘則)

「(なぜ参加しようと思ったのですか?) まずは阪田君に誘われたというのが、一番大きくて。あいつのことは大学のときから知ってますし、人間性も知ってます。その阪田君が誘ってくれたのなら、すぐに行こうと思いました。被災地の現状を見て一言で言うのは難しいですけど、見ないと分からない、話を聞かないと分からないこともあり、来て良かったなというのが正直なところでした。そこに住む人の話は、テレビの映像とかよりもダイレクトに伝わってきますし、話を聞かせていただいて良かったなと思います」(修行智仁)

 イベント名を“2014”と名付けたからには、これで終わるはずがない。阪田は今後もこの活動を続けていきたいと考えているそうだ。

「個人的には100人もいかないくらいだと思っていたので、予想以上でビックリしています。待つ時間が少なくて済むように、みんなでやれる競技にしたんですけど、それでもやっぱり寒いという子どももいたので、この経験を生かして来年の課題にしたいですね。Jリーガーで何かしたいと思っていても、なかなか自分で行動できない選手もたくさんいると思います。そういう選手も一緒に、しゃべったことはなくても、そういうところでサッカーしたらつながりもできるだろうし、呼びかけていきたいと思います。ただ、嫌々来てもらっても仕方がないですし、今回も“来たい”という選手ばかりが集まってくれたと思います」(阪田章裕)

 阪田へのインタビュー中、参加してくれた一人の子どもが、阪田の体に何度も飛びついてきた。そして「僕、阪田選手にサッカー習うんだもーん」と。阪田同様、周りの選手たちも大人気だった。福島に夢を植えるJリーガーの活動。お金や物資も必要だが、彼らにしかできないこともある。

<了>

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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