戦力の均衡化が生んだ「地方の戴冠者」=第92回全国高校サッカー選手権 総括

川端暁彦

“国立最蹴章”にふさわしい好勝負

星稜との北陸対決を制した富山第一。彼らの優勝要素の一つとしてU−18プレミアリーグの存在がある 【写真は共同】

「選手の質に関して、地域の差というのは本当になくなってきたよね」

 第92回高校サッカー選手権。その決勝前日となる12日、初のファイナリストとなった星稜(石川)・河崎護監督はそんな話をしていた。

 そんな戦力均衡の時代を象徴していたのが前回大会の覇者となった鵬翔(宮崎)だろう。率直に言って、サプライズだった。力のないチームでは決してなかったものの、大会直前にエースが負傷するなどマイナス材料が先行する中での戴冠。近年のファイナルは意外性に満ちているケースが多いのだが、その中でも飛びっきりだった。関係者に驚きを与え、そして多くの高校指導者に勇気を与える優勝だったと言える。

 その意味で言えば、富山第一と星稜の決勝となった今大会は、サプライズとは言い難い。どちらも決勝は初であり、北陸勢としても初めてのファイナリスト。ただ、共に地力のあるチームであることは明らかだった。その両チームが“国立最蹴章”にふさわしい好勝負を演じ、最後は富山第一の勝利という形で今年度の高校サッカー選手権は閉幕を迎えた。

富山第一を鍛えたU−18プレミアリーグ

 それにしても、富山第一と星稜という組み合わせには、運命の悪戯を感じずにはいられない。

 富山第一の優勝要因を一つに限定するのは乱暴だが、要素の一つとして彼らが2011年度の発足当初から参加している高円宮杯U−18プレミアリーグの存在を挙げることはできるだろう。日本全国の20チームを東西に分けて争われるこの大会は、高校の部活動、Jリーグのアカデミー組織、そして街のクラブチームといったカテゴリーの垣根なしに参加できる。日本最高峰のチームがホーム&アウエー方式で年間を通して覇を競うこの舞台が、富山第一の血肉となっていることは明らかだ。

 例えば、彼らの緻密かつユニークなセットプレーの数々は、「いかにして格上のJクラブを出し抜くか」という創意工夫の中で磨き抜かれてきたもの。何より、選手を集める(あるいは関東や関西への流出を阻止する)ための材料として「プレミアリーグ」は大きな武器となった。左サイドバックとして大活躍を見せたDF竹澤昂佑は「遠くの学校に行く選択肢もあったけれど、プレミアリーグに出られると聞いて富山第一を選んだ」と率直に明かしてくれた。もちろん、プレミアリーグに出れば選手権で勝てるかと言えば、そんな単純な話ではない。ただ、今年度の富山第一にとって、プレミアリーグでの経験が選手権でプラスに作用したのは確かだ。

 現在プレミアリーグは、全国9地域(北海道、東北、関東、北信越、東海、関西、中国、四国、九州)のプリンスリーグを下に置き、さらにその下に47都道府県リーグが連なるピラミッド構造の頂点に位置している。毎年、成績に応じた入れ替えが行われるわけだが、富山第一はこの荒波を切り抜け、トップリーグへの残留を続けてきた。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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