戦力の均衡化が生んだ「地方の戴冠者」=第92回全国高校サッカー選手権 総括

川端暁彦

リーグ戦の環境整備を担った星稜と富山第一の指導者たち

リーグ戦の環境整備は地域格差の解消、戦力の均衡化につながった。会場は変わるが、今後も「どこが勝つか分からぬ選手権」が続きそうだ 【写真は共同】

 ところで星稜は、どうしてこのリーグに参加していなかったのだろうか。

 11年度にプレミアリーグが創設されたという話は既にした。この年の参加チームは10年度のプリンスリーグの結果によって決定している。北信越から参加を許されたのは、わずかに1枠。プリンスリーグで過去7大会のうち5大会を制してきた星稜が大本命だったのだが、この年は富山第一に初優勝を許し、“プレミア切符”を逃した。これ以降、星稜は北信越のプリンスリーグこそ抜け出すものの、プレミアリーグ参入戦で敗れる状況が続いており、いまだにプレミアリーグ参入を果たせていない。

 10年度の富山第一は、選手権の県予選でまさかの苦杯を喫し、水橋に出場権を奪われている。だが、予選敗退の屈辱に涙した先輩たちがリーグ戦で星稜に競り勝って残していた“遺産”は、3年後に大きな花を咲かせることになったというわけだ。星稜との因縁を含めて、何とも言えない巡り合わせだ。

 サッカー界が志向する、育成年代での年間を通したリーグ戦。これは「『どうやったら選手が育って日本代表は強くなるんだろう?』。そんな話ばかりしていた」(河崎監督)という市井の高校サッカー関係者の叫びを始まりの一つとしている。この流れに日本サッカー協会が相乗る形で、つまりボトムアップとトップダウンの両輪によって、日本のスポーツ界では極めて珍しい現在の形が成立した。

 それこそ、今回の決勝でぶつかった星稜・河崎護監督と、富山第一の長峰俊之部長(前監督)などは、そうした流れの形成に一役買った指導者たちである。リーグ戦の環境整備が地域格差の解消、各チームのベースアップに伴う戦力の均衡化につながったのは疑いの余地がない。「田舎者でもやれるということを示せた」と富山第一・大塚一朗監督は語ったが、新たなる「地方の戴冠者」が出てくる流れが止まるとは思わない。「どこが勝つか、まるで分からぬ選手権」という楽しみは、当分は継続となりそうだ。

求めたいレギュレーションの見直し

 その一方で、「どこが勝つか分からぬ選手権」に少しだけ施してもらいたい改革がある。“最後の5分”で激しく試合の動いた決勝戦が象徴的だったが、サッカーには90分で戦うからこそ起こる独特のダイナミズムがある。現在、選手権は本大会の決勝と準決勝を除き、都道府県予選に至るまでが40分ハーフのフォーマットを基準としている。そろそろ改める段階に来たのではないだろうか。

 予選を含めて選手権で番狂わせが相次ぐ理由は、戦力均衡以外に40分ハーフという試合形式の問題もある。力の落ちるチームでも、80分なら守り倒せる可能性が90分のゲームよりも高いのだ。

 もちろん、本大会で45分ハーフを導入するとなると、現状の2回戦と3回戦が“中ゼロ日”になっているような日程の改革とワンセットでの議論になり、難しい部分は確かにある。このため、水面下では、日程面で余裕のある都道府県予選決勝の45分ハーフ化というものがまず議論されているようだ。もしそれだけでも、実現するなら大きな前進だ。「高校サッカーは40分ハーフ」という固定化された常識は、そろそろ壊す時期に来ている。

 番狂わせはサッカーの醍醐味(だいごみ)だが、番狂わせを誘発するレギュレーションがサッカーの醍醐味というわけではあるまい。今年も高校選手権の決勝は最高に面白かった。素晴らしいゲームだった。では、「なぜ素晴らしい試合になったのか」という本質についての議論を始めるべきだろう。そうすれば、自ずと一つの結論が出てくるのではないだろうか。

<了>

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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