春高バレーで躍動する201センチの新星=雄物川高校1年 鈴木祐貴

米虫紀子

高さを見せつけた春高バレー

準々決勝の大塚(大阪)戦では、因縁の相手に逆転勝利。鈴木(中央)も勝利に貢献した 【坂本清】

 今回の春高バレー、1回戦の東山高(京都)戦では、鈴木は初戦の緊張からか思うようなプレーができず、まったく存在感を発揮できなかった。
「3年生にとって最後の大会だから、これまでの大会とは全然違う。それに相手チームの向かってくる気持ちもすごくて、圧倒されました」

 初戦は東山に1セットを奪われたが、2−1で辛勝となった。しかしその夜、同部屋のキャプテン川村悠希に、「楽しんでやろう」と言われて気持ちが楽になった。翌日からは1戦ごとに調子を上げていく。そして準々決勝で、昨年の準優勝校、大塚(大阪)と対戦。雄物川にとっては、昨年の春高、インターハイ、国体と3連続で敗れている因縁の相手だ。

 セットカウント1−1で迎えた最終セット、大塚に1−4とリードされるが、鈴木がバックアタックを次々に決めて追い上げ、鈴木のブロックで8−7と逆転した。大塚も意地を見せ、試合はデュースにもつれ込んだが、雄物川は攻守の柱である川村が勝負強くスパイクを決め、32−30で接戦を制した。

 鈴木と川村は、天井に届くのではないかと思うような高いトスを打つ。2人の打点の高さを生かすためと、疲労を軽減するためだと宇佐美監督は言う。
「速いトスだと走り回らなきゃいけないから、疲れるのも早いし、その分打点も下がってしまう。長丁場の大会を勝ち抜くには、疲れを蓄えないようにしないといけないので。速いトスを得意とするセッターではないこともあります。何より2人の持ち味はブロックの上から打てること。その力がなかったら速いバレーをするしかありませんが、その力がありますから」

日本のバレー界を挙げて、育成に取り組んで欲しい

 トスが高い分、相手のブロックとディフェンスは整ってしまうが、それでも高校生相手ならば決められる。別格の高さからスパイクを打つ鈴木の姿は見ていて爽快だが、一方で、不安もよぎる。いくら身長があっても、自分より圧倒的に低い相手と対戦する日常に慣れてしまったら、今のシニアの選手と同じように、国際舞台に出た時に、世界の高さに苦しむことになるのではないか。身長2メートルは、海外のバレーでは普通だ。

 宇佐美監督が最重点課題に挙げる身体作りとともに、鈴木が高いブロックを頭に焼きつけられるような機会を増やしていく必要があるのではないか。全日本ユースやジュニアの大会だけでは十分とは言えない。

 例えば星城は、同じ愛知県を本拠地とするV・プレミアリーグの豊田合成やジェイテクトと数多く練習試合を行い、トップリーグの高さやパワー、スピードに体を慣れさせている。ただ、秋田県にある雄物川が同じようにするのは難しいだろう。
 宇佐美監督が、「鈴木は間違いなく、これからの日本を背負って立たなきゃいけない選手。それを背負わせられるように、辛抱強く育てないといけない。私だけじゃなく、日本のバレー界、日本バレーボール協会に、彼を育てていってほしい」と言うように、協会が計画的に若手選手に海外経験を積ませ、早い段階で世界標準を体にしみ込ませて欲しいと願う。

 ひとまず今は目の前の春高バレー。大塚に勝利し、鈴木は「自分の中では大塚に勝つことが目標だったので、めちゃくちゃうれしい」と満面の笑顔だった。

 それでも宇佐美監督は、「あの子の持っている能力はこんなもんじゃない。競れば競るほど、相手が強くなるほど、あの子はいいプレーをしますよ」とさらなる期待を寄せる。11日に行われる準決勝では鹿児島商と対戦する。「ここまで来られて、失うものは何もないので、ここからはめちゃくちゃ楽しんでバレーをしたい」と鈴木。

 成長著しい大器が、この先の強豪との試合の中で覚醒の時を迎えるかもしれない。

<了>

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著者プロフィール

大阪府生まれ。大学卒業後、広告会社にコピーライターとして勤務したのち、フリーのライターに。野球、バレーボールを中心に取材を続ける。『Number』(文藝春秋)、『月刊バレーボール』(日本文化出版)、『プロ野球ai』(日刊スポーツ出版社)、『バボちゃんネット』などに執筆。著書に『ブラジルバレーを最強にした「人」と「システム」』(東邦出版)。

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