プレミア・夏の補強の“費用対効果”は?=明暗がはっきり分かれる現地の評価

寺沢薫

酷評されるモイズとフェライニ

厳しい評価をされるフェライニ(中央)。エバートン時代の輝きを放てず、すっかり自信を失ってしまったようだ 【Getty Images】

 イングランドでは期待されながら活躍できない選手に対して「Flop(フロップ=失敗)」というワードを使う。ラメラはデイリーメールが選んだ「今季のフロップ・チーム」に入っているが、その中で「キャプテンマークを巻くのは彼しかいない」と不名誉な評価を受けてしまったのが、マンチェスター・ユナイテッドの新戦力、マルアン・フェライニだ。エバートンから鳴り物入りでやってきたにも関わらず、同記事で「加入してから何もしていない」と酷評される大型MFは、レギュラーに定着できないどころか、まだゴールもなければ先発したプレミア4試合で勝利もない。すっかり自信を失ってしまった。

 ただ、元アーセナルの解説者マーティン・キーオンが「モイズは彼を深い位置でプレーさせているが、もっと前方に出ていかなければいけない。ファイナルサードでまったく効果的な働きができていない」と語るように、フェライニ不振の要因はデイビット・モイズ監督の起用法にもあるのかもしれない。

 そのモイズ監督も、サー・アレックス・ファーガソンの後任という大仕事に苦しんでいる。16節終了時点で首位アーセナルと勝ち点10ポイント差の8位という成績を見れば、政権交代が順調でないことは明らかだ。プレー内容の退屈さも批判の的となっており、中には「モイズはフェライニではなくエジルを獲得すべきだった(『デイリースター』)」という声まである。クラブOBで『スカイスポーツ』の解説を務めるガリー・ネビルは、チームの問題が中盤のスピード不足にあると分析する。

「ユナイテッドは常に主導権を握り、相手にカウンターを許さず、圧倒的な波状攻撃を仕掛けるチームだった。しかし、中盤のプレーが遅いためそれができず、相手に回復の時間を与えてしまっている。だから相手がより攻撃的に、自信を持ってプレーできてしまっている」

 一方でネビルは、ウェイン・ルーニー移籍騒動への的確な対応やUEFAチャンピオンズリーグでの好成績など一定の評価も与えており、「モイズに時間を与えるべき。チェルシーやレアル・マドリーは優勝しても監督をクビにするチームだが、ユナイテッドは違う」とモイズを擁護する立場を取っている。ただ、世論の風は冷たく、12月にエバートンとニューカッスルに敗れ、11年ぶりのホーム連敗を喫すると、「ユナイテッドは今季、トップ4に入れるか?」という『マンチェスター・イブニング・ニュース』のアンケートでは「ノー」の意見が77%を占めた。また、大手ブックメーカー『ラドブロークス』はシーズン終了後のモイズ解任オッズを3.5倍に引き下げ、早くも「モイズの後任は誰か」という賭けをスタートさせた。ちなみにトップの候補はドルトムントのユルゲン・クロップ監督(7倍)で、ファーガソン復帰にも11倍というオッズが付いている。

モイズ以外の新監督に対する評価は上々

 ユナイテッドを含め、この夏は昨シーズンの上位3強がいずれも監督を交代したシーズンとして話題を集めた。チェルシーに戻ってきたジョゼ・モリーニョ監督に対しては、「信頼できる“9番”がいない(インデペンデント)」、「前任者たちにないカリスマ性こそあるが、まだコンスタントに結果を出せていない。ベストメンバーなら強いが、週に3試合を戦うとクオリティーを保てない(デイリーメール)」というような悲観的な見方もあるにはあるが、04〜07年の第一期政権から続いているホームでのプレミア無敗記録(68試合)をいまだ継続しており、その手腕を疑う声は出ていない。

 また、14日のホームゲームで首位アーセナルを6−3と撃破したマンチェスター・シティのマヌエル・ペジェグリーニ監督も評価は上々だ。『テレグラフ』のヘンリー・ウィンター記者は、新戦力の活躍を称えつつ、こう記事をつづっている。

「ペジェグリーニは、シティにより多くの創造性と冒険心を植えつけるために招聘(しょうへい)された。彼はフェルナンジーニョやアルバロ・ネグレドなど効果的な補強を行い、攻撃に多様性をもたらした」

「たくましさと優雅さのバランスがいい。ロベルト・マンチーニ時代よりプレーに幅もあり、ヘスス・ナバスという典型的なウインガーが、ダイレクトなプレーとスピーディーなランニングで相手を苦しめている」

 決して課題がないわけではなく、「アウエーでも同じ威厳を見せなければいけない」という条件付きながら、マラガからやってきた新監督の攻撃サッカーは高く評価されている。こう見ると、やはり最も風当たりが厳しいのはモイズであることは間違いない。

 そして、皮肉なことに、今季の“新監督”で最も高い評価を受けているのはモイズに代わってエバートンの指揮を執るロベルト・マルティネス監督だ。ウィガンからやってきたスペイン人監督は、上位をキープしているだけでなく、オールド・トラッフォードでユナイテッドを破るというモイズが成し得なかった偉業を達成し、「トップチームのアウエーに乗り込んだときの“精神的弱さ”を克服した(『ガーディアン』)」と激賞されている。元リバプールで今季から解説者に転身したジェイミー・キャラガーも、モイズ時代の力強い守備をベースに、パス&ムーブを取り入れた新チームの躍進には「正直、驚いた」と舌を巻く。ビッグクラブに比べれば選手層は薄いが、このままトップ4争いの伏兵になる可能性は十分だ。

 まだシーズンは中盤。成功者たちが“Flop”に転落する可能性もあれば、“Flop”が汚名を返上して主役に躍り出る可能性もある。例年に増して先が読めないプレミアリーグからは、まだまだ目が離せない。

<了>

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著者プロフィール

1984年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、株式会社フットメディア(http://www.footmedia.jp/)在籍時にはプレミアリーグなど海外サッカー中継を中心としたテレビ番組制作に携わりながら、ライター、編集者、翻訳者として活動。ライターとしては『Number』『フットボリスタ』『ワールドサッカーキング』などに寄稿する

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