「豊さんとベルカントの名を歴史に」=角田調教師 朝日杯FSインタビュー

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開業3年目、初GI挑戦の角田調教師がベルカントと武豊に託す思いとは 【netkeiba.com】

 ファンタジーSを圧倒的なスピードで逃げ切ったベルカントが、2歳の頂点を目指していよいよ東上する。紅一点にして唯一の重賞ウイナーとあって、注目度の高さはいうまでもないが、加えて武豊騎手のJRA全GI制覇という、前代未聞の記録がかかる一戦でもある。管理する角田晃一師にとっては、これがGI初出走。記念すべき初陣を前に、朝日杯を選択するまでの経緯と勝算を聞いた。(取材・文:不破由妃子)

乗り出してからは、とにかくスピードがすごくて

新馬戦は期待通りの5馬身差圧勝だった 【netkeiba.com】

 2011年の3月に開業し、3年目も後半を迎えた角田晃一厩舎。1年目の7勝から、2年目は19勝。今年は5日間の開催を残して20勝に到達した。厩舎として着々と歩を進めるなか、先のファンタジーSで重賞初制覇。今週の朝日杯フューチュリティS(以下、朝日杯FS)では、いよいよGIの初陣を迎える。

 そんなフレッシュな角田厩舎だが、そのほとんどの厩舎が順次建て替えられた真新しい厩舎に引っ越しを済ませたなか、いまだ築40年以上という年季の入った建物で厩舎を営んでいる。

「馬房が狭いので、馬のために早く引っ越したいんですけどね。来年の3月に、ようやく引っ越しです」

 そう語る角田自身は、こういってはなんだが、とても“その建物”には似つかわしくない調教師だ。というのも、現役を退いてから約3年10カ月が経つが、今もなお、ジョッキー時代と何ら変わらないスタイルをキープし、その佇まいは、いまだジョッキーそのもの。

「毎日というわけではありませんが、今でも馬に乗っていますからね。年を重ねていけば、いずれ乗れなくなるので、乗れるうちは乗っておきたいと思いまして」

 今回、牝馬にして、朝日杯FSへの挑戦を決めたベルカント。当然、この馬のデビュー前にも、自身の手綱でその感触を確かめた。まずは、さらにさかのぼって、ベルカントとの出会いから聞いていこう。

「生まれて2カ月目に土居牧場に見に行ったんですけど、女の子なのに当時から筋肉質で、体が大きかったんですよね。それで、何頭か見せていただいたなかで、この馬を選んだんです。乗り出してからは、とにかくスピードがすごくて。新馬戦は馬なりでの調整で余裕残しだったんですけど、当然と言ってはなんですが、勝てるだろうという自信はかなりありました」

 その新馬戦は、角田が“当然”という言葉を使ったのも納得の走り。スタートこそ若干出負け気味だったが、そこからスーッとスピードに乗って楽にハナに立ち、ほとんど追うところなく5馬身差の圧勝を飾った。鞍上に配したのは、角田の2つ上の先輩、武豊。

「前向きな気性なので、柔らかい豊さんに乗ってもらいたいという思いもあったし、なにより同じ勝負服でご活躍されていますからね。前田オーナーも豊さんを応援したいという気持ちが強いようです。デビュー前は、オーナーに対しても記者の方たちに対しても、あえて強気な発言は控えていたんですが、調教での動きや時計からか、当日は1番人気でしたからね。自信があったとはいえ、新馬戦はとにかくホッとしました」

 中2週で小倉2歳Sというローテは、デビュー前から視野に入っていたという角田。初戦で見せた圧倒的なスピードから、当然の如く、ここでも1番人気に支持された。

「レース前に豊さんが『小細工はしない』と言っていたので、ハナに行ったのは予定通りです。ただ、返し馬で言うことを聞かなかったり、ハナに立った瞬間に右にヨレたり、直線に向いたら今度は外にフラフラしたり……。若さを見せた一戦でしたね。でも、4コーナーでちょっと手応えがあやしくなりながら、そこから頑張って、最後は差し返すような脚を見せてくれましたから」

 勝ったのは、のちに男馬相手にデイリー杯2歳Sを勝つホウライアキコ。2着とはいえ、ペースや馬場(重)を考えれば、ベルカントも負けて強しといっていい内容だったが、レース後には武豊も、素直にその乗り難しさを口にした。

前に馬がいると追い抜くまで頑張る子

ファンタジーSで京都外回りの1400mを克服したのは大きかったと角田師 【netkeiba.com】

「スピードがあるのは間違いなくセールスポイントなんですけど、ありすぎるとウィークポイントにもなり得るのかなと思いましたね。調教でも返し馬でも、前に馬がいると追い抜くまで頑張る子なんです。ベルカント自身は追い切りじゃないのに、相手が追い切りだとつられて速くなってしまう。今はもう、そういうところもすべてわかっているので、ほかの馬がいないところを見計らって調教をやってます」

 非凡なスピードに、何がなんでも先頭に立とうする勝負根性。競走馬としては理想的な資質であるが、それをレース前に小出しにしてしまうと、肝心な勝負前に消耗してしまう。

「ファンタジーSでは、先出しして、メンコも着けて。ハミも普通のハミからリングハミに替えました。でも、先出ししておとなしく行ったまではよかったんですけど、そのあとに駄々をこね出して(笑)。ごねて1800mのポケットに入ろうとして、ゲートのほうに向かって行かなかったんです。その点、中山のマイルだったら、馬場入りしてからすぐにポケットに入れますからね。そういうことも考えました」

 ここで一端を口にした、朝日杯FSを選択した理由。しかし、それもこれも、ファンタジーSを勝ったことこそがすべてだ。

「1200mから1400mに使うときも、不安はありましたよ。そもそも新馬を勝ったあと、豊さんに『オーナーが1600mはどうかとおっしゃっているんですけど……』と話したら、即座に『無理!』って言われましたからね(笑)。初戦と2戦目は、返し馬で止めるのがだいぶ大変だったようで、ちょっと口を切ってしまったんです。まぁ珍しいことではないんですけどね。やっぱり痛いから、それも出遅れにつながったんだと思いますが、ファンタジーSのときは返し馬をせず、豊さんが優しくリードをしてくれたので、口を切ることもなく、ゲートも速く出てくれて。道中もスムーズでしたし、何より1400mで、しかも京都の外回りで、あれだけの競馬をしてくれましたからね。あそこをこなしてくれたのは大きかったですね」

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