40カ国によるW杯は問題が多すぎる!=“マーケティング優先”増加案の是非

後藤健生

「24→32」の恩恵で日本はW杯初出場

W杯予選プレーオフで敗れたスウェーデン。もし「40カ国」の出場となったら、本大会でイブラヒモビッチの雄姿が見られたかも知れない 【Getty Images】

 ワールドカップ(W杯)出場国を40カ国に増やそうという話があると聞く。
 たしかに、もし40カ国が出場できていたら、2014年大会ではクリスティアーノ・ロナウドとズラタン・イブラヒモビッチを同時に見られただろうし、もしかしたらガレス・ベイルだって出場できたかもしれない……。

 だが、それはヨーロッパを中心に強豪国の出場を増やした場合の話である。
 しかし、「40カ国出場」の話題と一緒に聞こえてきたのはアジア・アフリカなど発展途上地域の出場枠拡大の話だった。それがFIFAの思惑なのである。マーケティング(つまりお金)優先。例の、Jリーグの2ステージ制と同じ発想なのだ。
 つまり、出場国を増やせば、その国、その大陸でテレビ放映権をはじめW杯関連の諸権利を高額で売り込める。その結果、FIFAという組織が潤うという算段だ。

 たとえば、1994年大会までW杯は24カ国で開かれており、アジア枠はわずかに2だった。そして、ドーハで開かれた同大会のアジア最終予選で日本は3位となって出場権を逃した。しかし、98年大会から出場国が32カ国に拡大され、アジア枠も3.5となっていたおかげで、「第3代表決定戦」に勝った日本はフランスW杯に初出場することができた。

W杯は高いレベルで「世界一」を決めるべき!

 出場国拡大は、アジアにおけるサッカー人気拡大のきっかけとなり、現在、アジアはFIFAだけではなくヨーロッパのサッカー界にとって重要なマーケットとなっている。同じように、出場国を40カ国に増やして中東の金持ち国あたりを出場させることができれば、FIFAは財政的に大いに潤うことだろう。

 かつて出場国拡大によって利益を得た日本人としてこんなことを言うのははばかられるが、そんな理由で出場国を増やしていったら「水増し感」が拡大してW杯の価値が下がり、長期的に見ればFIFAのためにも、サッカーのためにもならないのではないだろうか。
 W杯というのはサッカーというスポーツの世界選手権大会なのだ。本来なら、強いチームを選りすぐって、高いレベルの試合を行って「世界一」を決めるべき大会であるべきだ。

元々は16カ国 日程にも余裕があった

 そもそも、僕は32カ国でも多すぎるように感じている。
 かつて(1978年大会まで)、W杯は16カ国で行われていた。

 当時のW杯には日程に余裕があった。
 現在、W杯の試合は開始時刻をズラしながら、毎日行われているが、当時は試合のない休息日もけっこうあったから、観戦に行っていても、観光をする余裕もあった(まあ、毎日やっているからといって全試合を見る義務はないわけだが……)。
 また、グループリーグは4つしかなかったから、各グループでどこが何位なのか、勝点差がどうなっているかといったことを、すべて覚えていられたが、32カ国、グループが8組もあると、どこの組にどの国が入っているのかさえ覚えきれるものではない(歳をとったせいか?)。

 W杯は、その後1982年大会から24カ国出場となったが、24カ国で行われたのはわずか4大会で、先ほども触れたように1998年大会以降は32カ国に拡大され、以後5大会は、「8組のグループリーグと決勝トーナメント」という同じフォーマットで行なわれている。

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著者プロフィール

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、観戦試合数はまもなく4800。EURO(欧州選手権)は1980年イタリア大会を初めて観戦。今回で7回目。ポーランドに初めて行ったのは、74年の西ドイツW杯のとき。ソ連経由でワルシャワに立ち寄ってから西ドイツ(当時)に入った。

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