必然だったアビスパ福岡の経営危機問題=露呈した構造的問題と長く険しい再建の道

中倉一志

経営危機はクラブの構造的な問題

最終節は金森(写真)らのゴールで2−0で勝利。今季を14位で終えた福岡は経営危機が発覚後、多くのサポーターに支えられた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

「多くの支援への感謝の気持ちを忘れずに、魅力あるクラブに生まれ変わろう」
「来年ココで笑顔で会おうよ」

 J2第42節・アビスパ福岡対ファジアーノ岡山戦。試合後に、サポーターによる大きなダンマクが掲げられた。10月中旬に明らかになったクラブの経営危機。その危機を脱するために多くのサポーターが動き、心ある企業が協賛に名乗りを上げ、そして全国各地のサッカーファンからも、数えきれない支援の手が差し伸べられた。掲げられたダンマクは、多くの支援に対する感謝の気持ちを表すとともに、福岡の新しい歴史を作っていこうという想いを表すものだった。そこにあったのは、クラブとともに、スタジアムに集う仲間とともに、全国に散らばる福岡を愛する人たちとともに、手に手を取り合って歩いて行こうという想い。サポーターは、苦しい状況に直面しながらも、前を向いて歩いて行こうとしている。

 クラブの経営危機が地元紙によって報じられたのは10月15日。2013年度が赤字決算見込みであること、資金繰りが11月末には滞り、運営資金約5000万円が不足する見込みで、場合によっては給与の未払いが発生する危険性があるというショッキングなものだった。同日、記者会見を開いた福岡は、大塚唯史代表取締役社長が事実を認め、その理由を「見通しの甘さによるもの」と説明。福岡の行政、財界のリーダーや、マスコミから厳しい意見が相次いだ。

 しかし、福岡の経営危機は今に始まったことではない。もちろん、当事者である現経営陣に責任があることは当然だが、その根本に横たわる理由は、クラブ設立から続く構造的な問題であり、それを先送りにしてきたことで澱(おり)のようにこびりついてきた問題点が、ここに来て一気に表面化したと見るのが正しいだろう。

責任の所在をあいまいにしてきたツケ

 福岡は、Jリーグの招致を訴える50万人の市民の署名を受けて、行政、地元大手企業で構成される『7社会』と呼ばれる財界のリーダー的な集まりを中心として、地元企業の協力で設立された。歴代の経営陣は、行政・大手株主企業の意向により、その職員が送り込まれており、「初の民間出身」と呼ばれた現経営陣も、大手株主企業の意向により送り込まれた人材だ。その脇を固める非常勤役員にも、行政・大手株主企業の役職者が名前を連ねてきた。アビスパ福岡の経営に関し、行政・大手株主企業が大きな役割と責任を負っていることは明らかだ。

 しかしながら、責任企業が明確にならないままでの運営は、責任の所在をあいまいにし、常に問題が先送りされるという状況を作り出してきた。それはやがて当事者意識の欠如という状況をも生み出し、その繰り返しの中で、遂に問題点が弾けてしまったのが今回の経営危機と言うべきだろう。問題発覚後、行政、大手株主企業のトップが、現経営陣に対して相次いで厳しい批判の声を上げたことに関しては、違和感を禁じ得ない。

 現在も、福岡の経営は依然として厳しい状況が続いているが、多くの支援の手により、11月末の資金繰りの目途が立ったこと、そして、経営危機という問題を起こした道義的、社会的責任を感じていることを理由に、大塚社長は11月末での退任を自ら発表。同じく代表権を持つ下田功代表取締役専務も、次期経営陣が決まり次第、辞任する意向を示している。そう遠くないうちに、次期経営陣が決まるものと思われるが、新たな経営陣は長年に渡って放置されてきた構造上の問題について、どのように対処していくのかが注目されている。

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著者プロフィール

1957年生まれ。サッカーとの出会いは小学校6年生の時。偶然つけたTVで伝説の「三菱ダイヤモンドサッカー」を目にしたのがきっかけ。長髪をなびかせて左サイドを疾走するジョージ・ベストの姿を見た瞬間にサッカーの虜となる。大学卒業後は生命保険会社に勤務し典型的なワーカホリックとなったが、Jリーグの開幕が再び消し切れぬサッカーへの思いに火をつけ、1998年からスタジアムでの取材を開始した。現在は福岡に在住。アビスパ福岡を中心に、幼稚園、女子サッカー、天皇杯まで、ありとあらゆるカテゴリーのサッカーを見ることを信条にしている

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