必然だったアビスパ福岡の経営危機問題=露呈した構造的問題と長く険しい再建の道

中倉一志

経営悪化後は福岡を支える力が強まる

福岡の希望はプシュニク監督の存在。若手の育成能力が評価されており、今季も多くの若手を起用した 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 その一方で、クラブには明るい材料も見えている。そのひとつは、サポーターの意識の変化だ。ここ数年、クラブの経営状況が悪化をたどるのと反比例するように、「何かをしてもらう」のではなく、「自分に何ができるのか」を考え、行動するサポーターが増えている。福岡が打ち出した新事業である「Kidsパートナー」に協賛金として2696万円(11月19日現在、法人609口、個人4174口)が集まったのも、株式会社ふくやが販売した「アビスパ福岡応援『うれしいギフト』満足セット・笑(しょう)」2960セットが完売したのも、その行動のひとつの表れ。その他にも様々な支援活動が行われており、福岡を支える力は確実に強くなっている。

 福岡大学商学部とのコラボレーションで実施した「学生Day」の成果も、福岡にとっては明るい材料だと言える。これは学生を対象とした集客活動で、第37節(10月20日)のガイナーレ鳥取戦では、有料入場者数の約1割に当たる445人の動員に成功。福岡関係者によれば、観客にとって最も関心の高い開幕戦の招待事業への応募でさえ300人前後ということだが、それを大幅に上回る人数を、しかも、スタジアムに足を運ばなくなっている20代を対象にして動員したという事実は大きい。大学側は、事情が許せば継続的にコラボレーション企画を行いたいという意思を持っており、福岡の経営状況改善の大きな力になることが期待されている。

希望を与えるプシュニク監督の存在

 そして何より、クラブにとっての最大の希望の光は、マリヤン・プシュニク監督の存在だろう。組織マネジメント能力に優れ、チームをアグレッシブに戦う集団に変革。チームが1年間を通して高いモチベーションを持ち続け、最後までばらつくことがなかったのも、プシュニク監督のマネジメント能力の高さを示すものだ。

 プシュニク監督が最も評価されているのが若手の育成能力だ。ルーキーである金森健志、三島勇太、中原秀人、パク ゴンらにチャンスを与え続け、いずれもレギュラー格に成長させたばかりではなく、高校時代は無名だった金森と三島をU−20日本代表に送り出した。この2人は、プシュニク監督の申し子とも言える存在で、リーグ最終戦ではアベックゴールを決めてチームに勝利をもたらした。プシュニク監督は、来シーズンはアカデミーの運営にも深く関わることになっており、その育成能力がフルに発揮されることは間違いないだろう。今シーズンの順位は14位に終わったが、将来に向けての土台作りは確実に進んでいる。

 また、ファン、サポーター、そして福岡に関わる人たちに対するプシュニク監督の言動は、様々な立場にいる人たちを、「アビスパ福岡」という名の下に、ひとつにする原動力となっている。スポーツクラブと、それに関わる人たちが、何を、どうするべきかを説き、町にとってプロサッカークラブが、どのような役割を担っているのかを発信し続け、問題点から逃げず、ここしかないというタイミングで送るさまざまなメッセージは、何度も福岡に関わる人たちの心を動かしてきた。その姿勢は、福岡を変えるばかりではなく、福岡の町さえも変化させる可能性を持っているように見える。

 さて、経営危機は最悪の状態を免れたとはいえ、まだまだ厳しい状況が続く。それを解決するには一定の期間が必要で、福岡が過去に経験した我慢の時よりも長くなるかも知れない。しかし、場合によってはライセンスの剥奪もあるかも知れないという状況に直面したことで、多くの人たちが町にサッカークラブがあることの意味を改めて考え直している。そしていま、多くの人たちがポジティブに前を向こうとしている。再建への道は長く険しいが、その気持ちがある限り、ゴールにたどり着く日は必ずやってくるはずだ。

<了>

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著者プロフィール

1957年生まれ。サッカーとの出会いは小学校6年生の時。偶然つけたTVで伝説の「三菱ダイヤモンドサッカー」を目にしたのがきっかけ。長髪をなびかせて左サイドを疾走するジョージ・ベストの姿を見た瞬間にサッカーの虜となる。大学卒業後は生命保険会社に勤務し典型的なワーカホリックとなったが、Jリーグの開幕が再び消し切れぬサッカーへの思いに火をつけ、1998年からスタジアムでの取材を開始した。現在は福岡に在住。アビスパ福岡を中心に、幼稚園、女子サッカー、天皇杯まで、ありとあらゆるカテゴリーのサッカーを見ることを信条にしている

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