山本隆弘が分析! 全日本の課題と未来=グラチャンバレー男子の序盤戦を語る

構成:田中夕子

レセプションで安定したプレーを出す考え方

リベロの永野(写真)らは、Aパスの捉え方を変え、安定したプレーを見せている 【坂本清】

 攻撃の1つ目のプレーがサーブならば、守備の1つ目のプレーはレセプションです。
 米国戦、ロシア戦では相手の強烈なサーブを返すことができず、直接失点にしてしまい、リズムを失くす場面が目立ちました。

 これは、120〜130キロのスピードサーブに対しても「Aパス(セッターが動かず、ボールを処理できる位置へのパス)を返そう」という意識が強すぎるために、姿勢が硬くなり、返るものも返らなくなってしまうからです。

 世界の強豪で、世界屈指のビッグサーバーのサーブを、ほぼすべてAパスにすることなど不可能です。ならば発想を変えて、セッターに返すのがAパスではなく、スピードサーブはアタックライン付近に上げることができればAパスと捉えればいい。リベロの永野(健)選手や、レセプションが得意な米山(裕太)選手は、その割り切りがきちんとできていたので、常にプレーも安定していました。

 相手が打ったチャンスボールは、きちんとセッターに返して、自分たちのコンビをつくることはもちろん大切ですが、返さなきゃ、とガチガチになって悪循環を招くのはよくない。攻めるところは攻める、守るところは守る、とサーブ同様に、レセプションも全員が割り切る意識を共有させることも大切です。

世界最高レベルのブロック対策を

ブロックの高さの違いは今までの戦いとは違う。リバウンドの取り方など、一工夫が必要となる 【坂本清】

 今大会に出場している5カ国は、サーブだけでなく、ブロックも世界最高レベルのチームばかりです。普段から高さや圧力に慣れている他国の選手と違い、ワールドリーグでもそれほど強豪とは言えないチームと対戦する機会しかなかった今の全日本にとっては、この「高さ」に慣れることも簡単ではありません。

 たとえば相手ブロックに当てて、後方へボールを飛ばすスパイクを打とうとする。日本でならば、相手の掌を狙って思い切り打てばいいのですが、ロシアのブロックに対しては、普段よりもボール2〜3個分、上を狙って打つ感覚を持たなければなりません。

 ゲーリー・サトウ監督が就任して以後、スパイカーたちに何度も言われてきたのが、「1人で勝負するな」、「高いブロックに対して最善のスパイクを打て」ということです。 これは、いかなる時でも「自分が決めなきゃ」と勝負を焦るのではなく、「無理はせずにリバウンドでつないで、全員でチャンスをつくり、1点を取れ」ということです。

 外から見ていると、スパイカー陣の多くが相手ブロックの間を抜こうとか、ブロッカーの横の厳しいコースを狙おうとしてスパイクミスをしたり、被ブロックにつながる場面が目立ちます。ブロックに長けた選手たちは、ボールに合わせるのではなく、ボールに被せる感覚で手を出してきます。そこに対して、まともに打っているだけでは相手の思うツボ。ロシア戦の終盤で、石島選手や米山選手が相手の掌を下から狙って、ブロックに当てたボールを相手レシーバーが取れないほど後方に思い切って飛ばしたスパイクのように、どうすればこのブロックを弾けるか、どうやって当てて得点につなげるかを考えて、もっとチャレンジしてほしいですね。

苦しいときだからこそ、貴重な機会と捉える

「自信につながるプレーを出して欲しい」と語る山本氏。残り2戦でどんな戦いを見せてくれるか!? 【坂本清】

 なかなか結果が伴わず、苦しい状態が続いています。
 でもだからこそ、これまでやってきたことを、この大会では思い切り出し切ってほしい。

 パスが乱れたところからもミドルのクイックを積極的に使うこと、そのクイックと同じテンポで後衛からのbick()もコンビの中に組み込むこと。前衛と後衛が同時に異なる位置から攻撃を仕掛けること、トスの通過点を高くすることなど、ゲーリー体制になって、いろいろと新たな試みにチャレンジしてきました。

 やってきたことはいくつもあるのだから、その中で何が通用して、何が通用しないのか。日本は世界の中でどれぐらいの位置にいるのか。それを知ることが、今は何よりも意味のあることです。

 これだけ強いチームと対戦できるのを、苦しいことだと思わず、貴重な機会と考えて、チャレンジャーの気持ちで攻め続けて行けば、きっとこれからにつながる突破口が見えてくるはずです。

 練習でできても、試合でできなければ意味がないし、この大会で出せなければ、五輪最終予選や五輪本番のように、本当にプレッシャーがかかった大会で出すことなどできません。

 どんな小さなことでもいいから、自信につながるプレーを出せるように。見ている人たちにも「全日本男子は、こんなに変わったんだ」と思えるような姿を見せてほしいですね。

<了>

編集部注…後衛の選手がセッターに近い位置で打つはやいバックアタック

山本隆弘

 1979年7月12日生。鳥取県出身。鳥取商業高校から日本体育大学に進み、2001年からVプレミアリーグのパナソニックに所属。左利きの大砲として期待され、同年から全日本にも選出。オポジット(スーパーエース)の役割を担ってきた。アテネ、北京、ロンドンと3度の五輪に挑戦し、2008年の北京ではその舞台に立つ。今年現役を引退し、現在はテレビ解説などの活動を行っている。

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著者プロフィール

1976年神奈川県生まれ。日本大学短期大学部生活文化学科卒業。なぜか栄養士免許を有する。神奈川新聞社でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部に勤務。2004年からフリーとしての活動を開始。高校時代に部活に所属したバレーボールを主に、レスリング、バスケットボール、高校野球なども取材。

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