楽天の敗退に考えるアジアシリーズの意義=田中将大の高い注目度が物語る日本の役割

室井昌也

本気度が高い台湾、豪州

参加国間で温度差があるアジアシリーズだが、まだまだアジアで日本が果たすべき役割は多い(写真は初優勝した豪州のキャンベラ) 【写真は共同】

 一方、台湾はアジアシリーズへの本気度が高い。それについて元中日投手で、CPBLの首席顧問を務める郭源治氏はこう話す。「台湾は野球が文化として根付いていて、若者に夢や希望を与えることができるのは、プロ野球しかないと考えています。だから国際試合を通して将来性を託しているんです」。今回のアジアシリーズには開催地の台中市、桃園県が主催に名を連ね、台湾の行政機関である教育部体育署もバックアップした。台湾の場合、国内事情のために野球の国際試合が求められていて、その行事のひとつであるアジアシリーズにも力を入れている。

 では今回、3度目の参加となった豪州勢はどうか。キャンベラのマイケル・コリンズ監督はアジアシリーズについてこう話す。「われわれは真剣です。特に先発マウンドに上がった投手たちは、国際大会を通して注目されて、日本でプレーしたいと思っています。他の選手たちも優勝を目標に努力を惜しまずやってきました」。豪州は現在、シーズンの最中。選手の招集に問題がなく、「今回の優勝は決して番狂わせではない」とコリンズ監督は胸を張った。

台湾記者「日本はアジアの中でリーダーシップを」

 半ば惰性で参加している日本と韓国に対し、真剣に取り組んでいる台湾と豪州。参加チームに温度差がある中、アジアシリーズを行う意義は何か。NPB関係者は「先人の職業野球を作った人たちも苦労してきて今があると思います。何年後かに“アジアシリーズをやっていて良かった”と思われるように続けていきたいです」と継続することの意義を強調する。
 継続することは大事だ。しかし、そのためには日本が果たすべき役割がある。前出の羅記者は日本に対し、「アジアの中でリーダーシップを発揮してほしい」と話す。アジアシリーズの現場で感じるのは、日本の監督、一流選手への関心が日本で想像するよりも高いということだ。今回であれば、星野仙一監督の一言に皆が熱心に耳を傾け、田中将大が現れれば人々の視線は釘づけになる。やはりアジアでは、日本が強力なリーダーシップをとる必要があると思わせる光景だ。そのためには、日本のリーダーが国内でアジアシリーズの理念を唱え、制度を整えた上で、12球団に真剣に取り組むよう説得。その姿をアジア各地域に見せ、目標である「将来的なクラブ世界一決定戦の実現」に向け、MLBにも働き掛けることが求められる。しかし、それができそうな人物は? というと難しい問題だ。台湾のメディアからは「王(貞治)さんにその役目をやってもらえないだろうか」という声が上がった。

 来年の開催に関しては、沖縄のある自治体の長が、今年8月に非公式ながら韓国を訪問し、KBOにアジアシリーズ誘致の協力を促すなどの動きがあった。しかし、具体的には決まっていない。また開催するには興行面も大きな問題だ。出場チームが大会直前にならないと決まらず、真剣勝負とも親善試合ともつかない中途半端な現状は、興味喚起を妨げている要因となっている。
 オリンピックの種目から外れ、世界的にマイナースポーツ化が進みつつある野球。そのこととアジア野球の国際化を目指すアジアシリーズの存在は無縁ではない。そのことに気がつき、日本がアジアでリーダーシップを発揮する日は再び訪れるだろうか。

<了>

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著者プロフィール

1972年東京生まれ。「韓国プロ野球の伝え手」として、2004年から著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』を毎年発行。韓国では2006年からスポーツ朝鮮のコラムニストとして韓国語でコラムを担当し、その他、取材成果や韓国球界とのつながりはメディアや日本の球団などでも反映されている。また編著書『沖縄の路線バス おでかけガイドブック』は2023年4月に「第9回沖縄書店大賞・沖縄部門大賞」を受賞した。ストライク・ゾーン代表。

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