全日本女子が世界相手に見せた成果と課題=『新戦術』の根底にある解決すべき問題
ブラジル、米国の強さは当たり前をこなす正確さ
ブラジル、米国は新戦術に対する対策をゲーム中に行う対応力がある 【坂本清】
いくら迫田がブロックに長けた選手とはいえ、ブロックの軸であるミドルブロッカーとしての役割が果たせているかというと、安易にイエス、とは言えない。事前の対策だけでなく、セッターとの駆け引きや、瞬時の状況判断、一朝一夕ではクリアできないことはいくつもある。
さらに言えば、相手チームにとってデータのない状態で迎えたロシア戦では通用したシステムも、最初から「ミドルの位置に入る16番の選手は、前衛でもバックアタックを打ってくる」とデータを取られていたら、同じように思い通りにいくとは限らない。
ロシア戦では面白いように決まった迫田のバックアタックも米国、ブラジルには2枚、3枚のブロックにマークされ、サイドアウトで得点が取れず、同じローテーションで連続失点を繰り返した。
この連続失点こそが新戦術の課題だと、木村は言う。
「ブラジルや米国のように世界トップのチームは、対応がすごくはやい。なかなか同じことはやらせてくれない、と実感しました」
サーブで狙われていたウィングスパイカーを、リベロがすぐさまカバーする。得点を量産するスパイカーに対して2枚、3枚のブロッカーを配置し、抜けるコースにレシーバーを置く。ブラジル、米国が日本に対して講じた策は、決して珍しいものではなく、当たり前のことばかり。だが、その当たり前のプレーを当たり前にこなす正確さが、世界のトップに君臨するチームの強さでもある。
世界選手権ではさらなるレベルアップが求められる
ブラジルの監督も日本の成長を認める 【坂本清】
決して謙遜ではなく、日本が世界のトップを目指すチームの1つとして、認められた証でもある。だからこそ、ドイツ、トルコ、イタリア、中国などグラチャンには参加しなかった強豪国との対戦も予想される世界選手権(2014年9月〜10月/イタリア)では、世界のトップレベルから、世界のトップへと昇り詰めるために、さらなるレベルアップも求められる。
「ミドルブロッカー」に突きつけられた明確な課題
日本の大きな課題は「ミドルブロッカーの得点力不足」。岩坂(右)は大きな危機感も抱いている 【坂本清】
大会を振り返り、前向きな言葉を述べる選手が多い中、岩坂名奈はこう言い切った。
「私だけでなく、すべてのミドルブロッカーがいろんな思いを持って臨んだ大会でした。でも、世界と戦うためにはもっともっと、高めなければならないことがあると感じた大会でもありました」
ブロックを跳んだ後、攻撃参加に遅れることを課題として挙げられ続けてきた岩坂も、この大会では意識的に長めの助走を取る姿が見られた。
ブラジルや米国のミドルブロッカーに比べれば、確かにまだその決定力は及ばない。だが、新戦術でポジションがなくなるかもしれない。そんな危機感が与えた、進化の兆しは、決して小さな変化ではない。
岩坂だけでなく、すべてのミドルブロッカーと、多くの指導者にとって、克服しなければならない明確な課題が突き付けられた。「ミドルブロッカーの得点力不足」という根本の解決への手立てをどうすべきか。これまでの固定概念を覆すことを含め、真剣に考えなければならない時でもあることを忘れてはならない。
この経験を、次にどうつなげるか。その過程こそが、きっと真のトップへとつながる道筋になるはずだ。
確かな進化を遂げている今だからこそ、課題の数は、それだけ多くの楽しみが広がる可能性も秘めている。
<了>
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