至上命令、スウェーデンを撃破せよ!=ポルトガル代表のW杯プレーオフを占う

市之瀬敦

主要大会の予選で3回連続のプレーオフ

主要大会の予選で3大会連続プレーオフを戦うポルトガル。豊富なタレントを抱えながら予選では苦戦を強いられる 【Getty Images】

 どうしてこんなことになってしまうのだろうか……。

 言うまでもない。2010年のワールドカップ(W杯)予選、12年欧州選手権(ユーロ)予選に続き、来年ブラジルで開催される14年のW杯予選。3つの主要大会の予選で3回連続してプレーオフを戦うことを余儀なくされてしまったポルトガル代表について話すとき、誰もがため息とともに発してしまう言葉である。

 ポルトガルと言えば、絶対的なエース、クリスティアーノ・ロナウド(レアル・マドリー)を筆頭に、攻守両面でタレント豊富なチームである。攻撃陣には、今季はマンチェスター・ユナイテッドでレギュラーポジションを失っているものの、潜在能力ではロナウドに負けないナニもいるし、コンスタントに代表ゴールを積み重ねるエルデル・ポスティガ(バレンシア)だっている。移籍したばかりのASモナコで中盤を支えるジョアン・モウティーニョも安定したプレーを披露し続けているし、ラウル・メイレレス(フェネルバフチェ)やミゲル・ベローゾ(ディナモ・キエフ)も健在である。最終ラインにもぺぺやファビオ・コエントラン(ともにレアル・マドリー)、ブルーノ・アウベス(フェネルバフチェ)、ジョアン・ペレイラ(バレンシア)ら、そうそうたる名前が連なる。GKのルイ・パトリシオ(スポルティング)も時に不用意な失点を喫することはあるが、国際的な評価の高い選手である。

 これだけの有名選手たちがそろえば、今回のW杯欧州予選でもプレーオフを戦わないで突破していても不思議ではないだろう。確かに、名将ファビオ・カペッロ監督率いるロシアは要警戒の相手ではあった。しかし、グループFのそれ以外の国(北アイルランド、イスラエル、アゼルバイジャン 、ルクセンブルク)に対しては、楽観的すぎるかもしれないが、全勝を見込むことだって可能だったはず。代表メンバーそれぞれの能力を単純に足し算するだけなら、多くの人がポルトガルの首位通過を予想したに違いない。

要因は「文化的問題」と「決定力不足」

 だが、サッカーはそんなに単純なスポーツではない。ポルトガルには「宿痾(しゅくあ)」とも言うべき問題が克服されないまま残されているのだ。J・モウティーニョの言葉を借りれば、「文化的問題」、すなわち、同等あるいはそれ以上の実力の持ち主が相手なら全選手が集中して、素晴らしい結果を出せる(12年のユーロを制したスペインを準決勝で0−0の末、PK戦まで追いつめたことは記憶に新しい)。一方で、格下と思える国と試合をするとどうしても油断が出てしてしまい、不本意な結果を残してしまう。W杯やユーロの本大会では好成績を収めることができるのに、前段階の予選で思いのほか苦労するのはそのせいとも言えるだろう。

 だが、予選で苦しむ原因を「文化」あるいは「国民性」という容易には変えられない要因に帰すばかりでは、これからも同じことを繰り返すだけになってしまう。もう少しサッカー的に考える必要もあるだろう。

 今回の予選でもホームで、同格とも言えるロシアには勝利(1−0)できたが、明らかに格下のイスラエルと北アイルランドには引き分けた(両試合ともに1−1)。ロシアは守るためだけにリスボンに来たわけではないが、イスラエルと北アイルランドは90分間ゴール前を固め、とにかく勝ち点1を得るためにプレーした。ポルトガル代表の攻撃陣は攻めの姿勢を見せるチームを崩すことはできても、守りを固めるチームからゴールを決めることがなかなかできないのである。結局は「決定力不足」の一言で要約されてしまうのかもしれないが、この弱点を克服しなければ、常に予選グループを首位で勝ち抜けるドイツ、イタリア、スペインのような真の強豪国に肩を並べることは難しいであろう。

 折しもつい先日、FIFA(国際サッカー連盟)のジョセフ・ブラッター会長がプレーオフ制度の見直しを示唆しており、いつまでもグループ2位からのサバイバル戦に頼っているわけにもいくまい。その意味でも、ポルトガル代表はさらなる高みを目指さねばならないのである。

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著者プロフィール

1961年、埼玉県生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科教授。『ダイヤモンド・サッカー』によって洗礼を受けた後、留学先で出会った、美しいけれど、どこか悲しいポルトガル・サッカーの虜となる。好きなチームはベンフィカ・リスボン、リバプール、浦和レッズなど。なぜか赤いユニホームを着るクラブが多い。サッカー関連の代表著書に『ポルトガル・サッカー物語』(社会評論社)。『砂糖をまぶしたパス ポルトガル語のフットボール』。『ポルトガル語のしくみ』(同)。近著に『ポルトガル 革命のコントラスト カーネーションとサラザール』(ぎょうせい)

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