日本一に導いた楽天・嶋のファインプレー=マー君攻略も巨人が優勝できなかったワケ

構成:スポーツナビ

橋本氏「阿部に象徴、巨人“らしさ”見られなかった」

シリーズ通算打率9分1厘に終わった阿部。田中を攻略しながら、波に乗り切れなかったチームの象徴になってしまった 【写真は共同】

 第7戦の結果に関しては、初回の攻防がすべてでした。昨日の解説でもお話しましたが、杉内俊哉投手の序盤の投球に不安を感じていましたが、不安が的中してしまいました。また、打線は第6戦で田中投手を攻略し、ようやく巨人“らしさ”が見えたかと思いましたが、第7戦の阿部選手や坂本勇人選手の1打席目を見る限り、また第5戦以前の状態に戻っており、内容も悪い凡打に終わってしまいました。

 あらためてシリーズを振り返ると、巨人“らしさ”が見られない日本シリーズでしたね。第6戦は別にして、第1戦も第4戦も勝っていながら、勢いは楽天にありました。それも、チームの象徴である阿部選手が打てなかったのがすべてでしょうね。嶋選手の好リードもあり、インサイドをうまく攻められました。ただ、甘いボールはありましたから、余計に状態の悪さを露呈してしまったように感じました。結果論ではありますが、阿部選手の結果がチーム全体のリズム・空気に影響を与えてしまったようにも感じます。阿部選手の不調が、ピッチャーにプレッシャーをかけてしまったように思います。今回の阿部選手には、シリーズの勝ちを引き寄せる力が出ず、シリーズ全体の流れを巨人に引き寄せることができませんでしたね。

 巨人は田中投手を第6戦で攻略したとはいえ、原辰徳監督がコメントしていたように、終始、打つ方で主導権を握ることができませんでした。東京ドームでの第4戦、楽天投手陣が12四死球と崩れながら6対5と辛勝した点など、シリーズを通して、打線に物足りなさが残りました。
 打線が低調だった理由ですが、両サイドに速い変化球を使われてうまく攻められたのが要因だと思います。また、ピッチャーの持ち味を引き出した嶋選手の巧みなリードがあったと思います。阿部選手、坂本選手、ロペス選手に第6戦まで、復調の兆しを与えなかった嶋選手は素晴らしかったですね。

 巨人もクライマックスシリーズ(CS)で、勢いのある広島を3タテし、良い形で臨んでいたと思います。しかし、巨人の先発陣はシーズン終盤で打ち込まれていたケースもあり、大黒柱、絶対的エースが不在という点で不安も少なからずあり、それがシリーズで露見してしまいました。
 一方、楽天は3番手以降が弱点と言われながら、美馬投手がCSでも好投しコンディションを上げてきていたという点で、戦前に予想していた以上に、楽天投手陣の状態が良かったです。楽天の弱点とされていた3番手以降の先発陣を打ち崩せず、東京ドーム3連戦で負け越したことが、結果的に日本一の勝敗を分けたと言えると思います。

菅野に期待、絶対的エースに育ってほしい

 巨人はV9以来40年ぶりの日本シリーズ連覇を目指していましたが、優勝を逃しました。ただ、戦力としてはバランスも整っていますし、勝負は時の運だったということもあると思います。

 強いて足りない部分を挙げるならば、大黒柱、絶対エースの不在でしょうか。パ・リーグのエースは150キロのストレートを軸に、多彩な変化球で攻め、かつタフな投手が多いですね。田中投手のようなエースはなかなかいないですが、肉体的・精神的に強く、「コイツが投げるとチームに安心感を与える」という投手が出てきてほしいです。その候補は菅野智之投手です。今季はルーキーでしたが、来季はチームの柱として、エースに成長していってほしいですね。

<了>

橋本清/Kiyoshi Hashimoto

1969年5月22日生まれ。大阪府出身。PL学園高では立浪和義(元中日)、片岡篤史(元日本ハム、阪神)、野村弘樹(元横浜)らと甲子園春・夏連覇に貢献、その年にドラフト1位で巨人に入団。中継ぎのエースとして活躍し、当時の長嶋茂雄監督から「勝利の方程式」と呼ばれ、94年の日本一に貢献した。2001年に引退後はスポーツライターや野球解説者として活躍している。

山村宏樹/Hiroki Yamamura

1976年5月2日、山梨県出身。甲府工高から95年ドラフト1位で阪神入団。2000年に大阪近鉄に移籍し、先発ローテとして01年のチームのリーグ優勝に貢献する。04年オフに分配ドラフトで東北楽天に移籍し12年に引退後は、野球解説やコラム執筆を中心に活動している。

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