日本一のショート宮本慎也に感謝を込めて〜燕軍戦記2013〜VOL.7
引退する選手とは思えない守備のフットワーク
90年代のヤクルトの黄金期を象徴する宮本がユニホームを脱いだ 【写真は共同】
通算2000本安打を達成した昨年5月4日の広島戦(神宮)を思わせる雨模様の中、11回裏には通算8486回目にして、現役最後の打席が回ってきた。スタンドからは懐かしい応援歌が響き渡る。マウンドには阪神の3番手・松田遼馬。宮本がプロ入りする前年に生まれた19歳の若武者がフルカウントから投じたインコースのストレートに「真っすぐ1本で張って、フルスイングしようと」バットを強振すると、打球はレフトスタンドに向かって高々と舞い上がった。サヨナラホームランか――。割れんばかりの大歓声が上がり、ネット裏で見ていた筆者も思わず腰を浮かせて前のめりになった。しかし、打球はフェンス手前で左翼手のグラブに収まり、「もしかしてと思って走りましたけど、そんなうまい話はなかった」と、宮本の顔から思わず笑みがこぼれた。
「悔いのない野球人生、現役生活」
「神様がくれたのかわからないですけど、12回までやらせてもらって……。途中でバテて“ショートってこんなに大変なポジションだったのかな”って感じながらやってましたけど、本当にスッキリして悔いのない野球人生、現役生活だったと思います」
来月で43歳になるというのに、ショートのポジションを12回まで全力で守りきった。傍から見ればまだ余力は十分にあるようにも見える。だが、自分の引き際を自分で決められるのは、プロ野球の世界で長年にわたって第一線で活躍したほんの一握りの選手だけ。宮本が決断した以上、われわれは感謝の意を込めて「お疲れ様でした」と言うほかない。1990年代のヤクルトの黄金期を象徴する選手がユニホームを脱いで、1つの時代が確実に終わりを告げた。
<了>