選手の意識改革こそ新リーグ成功のカギ=自主興行リーグへと変化したNBLが開幕<2>

小永吉陽子

選手会発足、開幕戦満席プロジェクトの中心となって動いている岡田優介 【小永吉陽子】

 男子バスケットボールの新リーグ『NBL』(ナショナルバスケットボールリーグ)が9月28日に開幕した。自主興行リーグとしてスタートしたNBLは、一試合平均2000人の集客を目指して、バスケットボールの価値を高めるために動き出した。第2回のコラムは選手の意識改革のもとで迎えたNBL開幕の様子を追う。

ツイッター上で投じた一石が意識改革の発端に

 NBLが初年度の重点施策に掲げた「集客とコート上の質」。その主役となるのは、コート上で戦う選手たちだ。選手自身がいちばん変わらなければ、バスケットボールの商品価値は上がらない――バスケットボール界がそんな切迫した状況に置かれていることに、トップリーグの選手たちはようやく気付き始めた。NBLの立ち上げを機に『選手会』が発足されたのだ。

 事の発端は、昨シーズン中の3月、のちに選手会の会長を務めることになる岡田優介(トヨタ東京)がSNS(ソーシャルネットワークサービス)のツイッター上に、選手たちへの説明がないままに、新リーグのルールや試合数、サラリーキャップなどの概要変更が起こっていくことの疑問をぶつけたことに始まった。リーグはもとより、JBL所属選手たちの意識改革を促すために、SNSからの発信を試みたという。そしてシーズン終了後、わずか3カ月というスピードで全選手の意思確認を取りつけ、諸手続きを済ませ、非営利型の『一般社団法人日本バスケットボール選手会』を立ち上げた。

 選手会はNBLに所属する全日本人選手が任意によって参加。設立の目的は、労働組合的な活動をするものではなく、選手間の連携を強化し、バスケットボールの普及と発展、選手を取り巻く環境の改善をしていくことが狙いだ。

 会長を務める岡田優介は選手会の立ち上げについて、強い決意を示している。
「これからは選手自身が自発的に物事を考えて、バスケットボール界を変えていくという意識を持つべきだし、選手たちも意見を主張するだけでなく、海外や他競技の選手のように、広い視野を持って勉強していくことも必要。選手会を作ることが行動に移すきっかけになるのなら、その一歩目を僕が引っ張っていけたらと思っています」

満席の体育館でバスケを! 集客活動の成果は?

「満席の体育館でバスケを!」という選手の呼びかけに、開幕戦となった代々木第2体育館には2523人の観客が集まった 【加藤よしお】

 選手たちの“自発的に”という発言は、開幕に向けてのPR活動にも発展した。開幕をホームで迎えるトヨタ東京は、選手会の会長である岡田を中心に『開幕戦満席プロジェクト〜「満席の体育館でバスケがしたいです…」〜』との呼びかけを、SNSを通じて大々的に拡散した。選手が行うPR活動としては最大級であり、まさに“プロジェクト”といえる積極性があった。さらには、地元の店舗を中心としたポスター貼りの告知から始まり、満席プロジェクトの賛同店を募って特典が受けられるサービスを提供するなど、開幕にフォーカスした新リーグの宣伝を行った。

 その効果は、代々木第2体育館のキャパシティ約3000席のうち、8割が埋まる2523人の観衆を初戦で集めた。レギュラーシーズンではここまで館内が埋まることはないだけに、「効果は予想以上」(岡田)だったと言える。求められるコート上の結果についても効果的な3ポイントを5本決め、開幕戦の勝利に貢献した。

 集客については、選手たちからはこんな意見も出ている。選手会副会長を務める朝山正悟は企業とプロチーム含めてJBLを5チーム渡り歩き、今季は優勝したアイシン三河から三菱名古屋に移籍した選手。企業チームの中で集客が多い三菱に対し、常に成績はトップクラスながら、集客では及ばないアイシンとの違いはどこにあるのか、疑問を抱いていたという。

「三菱では毎週、クリニックやイベント、地域活動などを盛んにやっています。だから、同じ愛知県でもアイシンより三菱のほうが観客が多いのだと、その理由がわかりました。5チームを渡り歩いた中で感じたことは、待っていても何も変わらないということ。選手たちはファンにバスケの楽しさを伝える活動をしていきたいし、選手たちが動くことによって、企業側ももっとやる気になってくれるんじゃないかと期待しています」(朝山)

 こうした草の根の活動は、集客が死活問題に直結するプロリーグのbjや、JBL時代のプロチーム、栃木や北海道では当たり前に行われていることだ。自主興行化に伴い、NBLの選手たちが、「自分たちのパフォーマンスを見に来てもらうことでサラリーを稼ぐ」ことを意識しだした今、ようやく日本のバスケットボール界が、重い腰を上げてプロ化に向けて動き出したのだといえる。

bjから参戦した千葉から伝わる“覚悟”

ホーム船橋で迎えた千葉ジェッツの開幕戦。熱狂的なファンがゴール下陣取って声援を送る 【小永吉陽子】

 開幕2連勝を飾った千葉ジェッツ。bjから唯一の移籍組である千葉が、連勝スタートを切ったことは大きな意味を持つ。新規参入チームとして、NBLでどう戦うべきかの方向性が見えたからだ。

 対戦相手の日立東京はヘッドコーチが変わったうえに、大黒柱の竹内譲次をケガで欠き、チーム力が固まらないことも連敗した理由にあったが、その条件は千葉ジェッツも同様だ。昨季、bj横浜を優勝に導いたレジー・ゲーリーHCを引き抜いて間もないうえに、チームの主力はこれまでJBLでプレータイムの少なかった者や、ケガからの再起にかける移籍選手たち。これらをキャプテンの佐藤博紀やガードの田中健介といったbj時代から活躍する選手が支えている。コーチと選手が結集してまだ3カ月にも満たない新規参入チームでありながらも、ゲーリーHCが求めるチームディフェンスとシュートセレクションに至るまで、各自が役割を遂行しようとする姿勢は十分に伝わってきた。その根底にあるのは、「所属するリーグがどこであれ、バスケットボールをすることは同じ。勝つことにこだわりたい」(佐藤)という思いだ。

 NBL初年度は、従来の8チームから12チームに増加したことによって、戦力格差が生じることは否めない。しかし、千葉ジェッツのような覚悟を持って参入した新しい血こそが、リーグの新陳代謝には必要となる。ジェッツの熱烈ファンの応援体制はbj時代と変わることはなかった。ファンはリーグにつくのではなく、チームや選手が発信する心意気に対してつくものだと実感させられた。

 選手会の会見にて副会長の竹内譲次が「これまで僕たち選手は与えられた舞台でしか動いていなかった」と発言したように、日本のバスケットボール界に足りなかったのは、目的を達成するために、コツコツと一つ一つ積み上げて土台を築き上げていくような汗をかく共同作業だった。選手会が発足したとはいえ、開幕したばかりのNBL同様、具体的な活動をするのはこれからである。しかしながら選手会を立ち上げた意義は、選手たちが自発的に動いて意識改革の一歩を踏み出したことにある。

 リーグを盛り上げる主役は、間違いなく実際に戦う選手たちだ。だからこそ、選手には戦場であるコート上での向上をいちばんに求めたい。選手の意識の高まりが観る者の心に訴えるパフォーマンスを生み、NBLを盛り上げ、日本のバスケットを変える一歩となる。そんな姿勢がコート上で見えたときに、草の根活動が実を結び、「また見たい」と観客動員につながるリーグになっていくのではないだろうか。開幕はティップオフの笛が鳴ったにすぎない。ここからが長丁場の試合の始まりだ。

<了>
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著者プロフィール

スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者となる。日本代表・トップリーグ・高校生・中学生などオールジャンルにわたってバスケットボールの現場を駆け回り、取材、執筆、本作りまでを手掛ける。

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