プロバスケの活動で子ども達に夢を!=NBL熊本ヴォルターズ誕生のストーリー

河合麗子

プロチームを招待しての試合に工夫も

熊本ヴォルターズを運営する熊本バスケットボール株式会社の湯之上聡代表取締役 【熊本バスケットボール株式会社】

 そんな中、2010年にはアメリカの独立リーグIBLに所属するチームと、当時JBLで日本一に輝いたリンク栃木ブレックスを熊本に招き、招待試合を企画した。
 そしてここである工夫を行う。それはこの試合のチケットを県内企業100社に購入してもらったのだ。将来的にはチームのスポンサーになってもらいたい県内企業。まずはプロバスケの迫力を実際に見てもらい、その面白さを体感してもらう作戦だった。
 こうした工夫をしながら湯之上代表が配った名刺は約3000枚。つながりが乏しかった県内企業との関係も、住永氏のフォローなどもあって次第に増していった。

 そうして2012年6月、熊本ヴォルターズのNBL参入が承認された。現在、熊本ヴォルターズの株主は75、法人パートナーは開幕戦までに160程が集まる予定だ。

 今年8月のチーム始動会見。湯之上代表の目には涙がたまっていた。
「選手もいない、チームもない、お金もない。否定され批判され、何をやっているんだ、できるわけがないだろうと言われ続けた。ただただプロチームの設立が子ども達の将来につながることを信じて一歩一歩やってきた」NBL参入までの苦労について言葉を詰まらせながら振り返った。

“夢”の実現へ―― 新チームの船出

今年9月、兵庫とのプレシーズンゲームは白熱した展開に 【河合麗子】

 新チームでの船出を前に選手達の思いもさまざまだ。
 熊本市出身でパナソニック(現和歌山トライアンズ)から移籍した小林慎太郎は、「自分が熊本に帰りプレーヤーとして精一杯やっていくことが地元を盛り上げることにつながると考えた」と入団理由を語った。今季はキャプテンに任命され重責を感じているというが、観客や報道陣1人1人に握手を求める姿勢には、ヴォルターズの看板を背負うキャプテンシーを感じる。

 また2001年から東芝ブレイブサンダースでプレーし、昨季は戦力外も経験した小野元は、湯之上代表の「子ども達の夢を作りたい」というチーム理念に強く惹かれたという。1人娘の父親でもある小野は「建前としてそう掲げるチームもあるが、教師を経験した湯之上代表が語る理念には強く共感するところがあった。大人は次の世代のことを考えて働く必要があるのでは」と語る。プレシーズンゲームは同じ新規加入の兵庫ストークスに敗れたものの、小野は最終第4クオーター残り50秒で3点差に追いつく連続得点を決めた。昨季のブランクを感じさせないプレーに熊本の1500人を超えるファンが沸いた。

 プレシーズンゲーム終了後、バスケット部に所属するという少年が語ってくれた。
「プロバスケの熊本ヴォルターズは僕の憧れです」
 その光景は湯之上代表がアメリカで見た景色に少し似ていたのかもしれない。ただ夢が実現する姿は、今後のさらなる活躍を期待し、NBLでの戦いをもうしばらく見てから判断することにしよう。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

熊本県出身、元琉球朝日放送・熊本県民テレビアナウンサー。これまでニュース番組を中心にキャスター・リポーター・ディレクターなどを務め、スポーツ・教育・経済・観光などをテーマに九州・沖縄をフィールドに取材活動を行う。2016年4月の熊本地震では益城町に住む両親が被災した。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント