セレソン好調も一向に進まぬ環境面の整備=W杯開催に暗雲をもたらす不安材料

大野美夏

ピッチの外は不安材料を抱えたまま

スタジアムの工事はなんとかなりそうだが、空港や道路の整備が進んでいない 【写真:ロイター/アフロ】

 一方環境面だが、残り8カ月でどのような状況か見てみよう。

 東京が五輪開催地に決定したニュースは、16年の開催国のここブラジルでも大きく取り扱われた。日本でも言われていたように、ブラジルでも『リオデジャネイロ五輪の不安から安心安全の選択をした』と自国を自虐的に批判している。

 3年先のリオ五輪は民間資金の不足で、このままいくとすべてが遅れる可能性がある。そのため公的資金のさらなる投入が現実味を帯びてきた。問題は資金をどこで調達し、どうやって返していくのか。いったいいくらかかるのか見通しが立たない。五輪委員会にとって、リオはソチ(14年冬季五輪開催地)とともに大きな頭痛の種だ。W杯の準備がてんやわんやの状態なのだから、五輪の準備が進まないことも悪い意味でシュミレーション済みのようなものだ。

 さて、ピッチの中のブラジルは好材料がそろい調子を上げているが、ピッチの外は不安材料を抱えたまま。コンフェデ杯のときは、スタジアムがぎりぎりになっても完成せず、かなりFIFAをやきもきさせたが、スタジアム建設はなんとか間に合いそうだ。どのスタジアムも工事の遅れが目立っていたが、この2カ月ほど急ピッチで進められ、どこも現在の完成率が上がってきている。一番心配されていたクイアバも6月に67パーセントで危険信号が点滅していると言われたが、8月で一気に80パーセントにまで伸びた。マナウスは74パーセント、クリチーバは78パーセント。ポルト・アレグレは74パーセント、ナタウは78パーセント、そして一番進んでいるのがサンパウロで85パーセントとなっている。

空港整備が恐ろしいことに

 スタジアムはなんとかなりそうだが、問題は空の玄関である空港とスタジアムまでのアクセスおよび道路の整備だ。ブラジルは鉄道が発展していないため、移動は空路がメインにもかかわらず、空港整備が恐ろしいことになっている。

 開催12都市のうち、既存のものでOKというところはゼロ。滑走路の増設、ターミナルの改修及び増設が必要なところがほとんどにもかかわらず、現在の進捗状況はナタウが27.5パーセント、ベロオリゾンテはターミナル改修が26パーセント、新たなターミナルは6月にやっと入札が決まり、まだ建設は始まってもいない。間違いなく観光客が詰めかけるリオの国際空港はターミナル改修が21パーセント、フォルタレーザは27パーセント、ポルト・アレグレはターミナルの改修及び増設の計画はあるが、開始の気配さえない。マナウスは、当初の計画でモノレールとバス専用レーンの開設などと言っていたが、結局は何もしないまま。

 一番心配されているクイアバは14年3月の完成予定に間に合わせるには、現段階で最低でも45パーセント進んでいないといけないはずが、わずか18パーセント。このペースで行けば、完成は15年7月でW杯の1年後という計算。どう考えても間に合うわけがなく、笑うしかない状況だ。FIFAの怒りはいかほどだろう。

 コンフェデ杯ではなんとかやり過ごせたが、W杯本番では訪れる観光客の数はもっと膨れ上がるにもかかわらず、街の受け入れ態勢ができていない。

 サンパウロは、スタジアム建設こそ急ピッチで進められているが、周辺の環境整備は遅れたまま。既存の地下鉄の前にスタジアムを建設したため公共交通は確保されているが、W杯中に一般客が大きな迷惑を被ることは間違いなし。道路も普段から街のあちこちで渋滞が発生しているが、スタジアム周辺のインフラ整備はそれほど進んでいない。

 セレソンの好調でW杯が楽しみになる一方、W杯中は街から脱出するとまで言う人もいる。確かに、街の混雑を予想すると今から気分がめいってくる……。

<了>

9月21日(土)放送のFOOT×BRAINは、ザックジャパンに物申す! アナリスト6人が集結して問題点を徹底討論。今、日本代表は何をすべきか、W杯へ向けて提言します。

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著者プロフィール

ブラジル・サンパウロ在住。サッカー専門誌やスポーツ総合誌などで執筆、翻訳に携わり、スポーツ新聞の通信員も務める。ブラジルのサッカー情報を日本に届けるべく、精力的に取材活動を行っている。特に最近は選手育成に注目している。忘れられない思い出は、2002年W杯でのブラジル優勝の瞬間と1999年リベルタドーレス杯決勝戦、ゴール横でパルメイラスの優勝の瞬間に立ち会ったこと。著書に「彼らのルーツ、 ブラジル・アルゼンチンのサッカー選手の少年時代」(実業之日本社/藤坂ガルシア千鶴氏との共著)がある。

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