『ももクロ×スポーツ』その融合と親和性=演出家・佐々木敦規氏インタビュー
8.4日産スタジアム「ももクロ×スポーツ」の融合はいかにして生まれたのか? 【(C)STARDUST PROMOTION INC.】
チケットの先行抽選販売では大多数が落選し、一般販売もわずか2分ともたずに完売。当日はスタジアムに6万人が集結し、全国55カ所の映画館・ライブハウスで同時生中継されたライブビューイングにも2万5000人を動員した。さらに、会場外から“音漏れ”を中継したUSTREAMにも1万人以上もの同時視聴があったという。
世界水泳、世界陸上にも負けない巨大な熱を日産スタジアムで生み出したももクロ。開会式では1984年ロス五輪を彷彿とさせるロケットマンが宙を舞い、聖火台には火が灯され、ライブ中には猫ひろしがフルマラソンに挑戦、また武井壮とガチンコ100m走対決、さらに元日本代表とサッカー対決を行うなど、アイドルという枠を飛び越えてスポーツとの融合を見事なまでに果たした。
『ももクロ×スポーツ』――なぜ、これほどまでに違和感なく、しっくりハマるのだろうか? その親和性の高さを解明するべくスポーツナビは、ももクロのステージ演出を務める佐々木敦規氏にインタビュー。2年前の秋にも「ももクロとプロレス・格闘技」というテーマでスポーツナビのインタビューに答えてくれた佐々木氏に、今度は日産大会の舞台裏を聞いた。
スポーツナビがももクロを取り上げるのはおかしいって? 「読んでから決めろー! これが『ももクロ×スポーツ』だーっ!!」(取材日:8月下旬)
「反省点が相当出てきたのは、正直なところの事実」
「なるほど、手応えですか。小さいところから始まって徐々に大きくなっていくグループと違って、本当にももクロはハンパじゃないくらいの感じで大きくなっていってるので、もう毎回大きくなるたびに初めてのことが多いじゃないですか。それはメンバーだけじゃなくて、スタッフも一緒なんですよね。だから、一番最初に日本青年館(2010年12月24日)で1300人の前でやったチームが、そのまま6万人の日産スタジアムに来ているわけなので、大きくなるたびに何かと初めてのことが多くなるんです」
――2年半でおよそ50倍ですね。
「日本青年館から始まって、翌年の夏に“Z”になって初めてよみうりランドでライブ(2011年8月20日)をやって、これが2年前の夏で6000人の前でやったライブでした。そこの経験値から1年後の夏に、西武ドーム3万7000人の前でライブ(2012年8月5日)をやったときに、もちろんももクロなりのステージは作ったつもりだったんですけど、やはり見えにくいところでの反省とか、前年6000人でやってたところが1年後に3万7000人になるというところでの、会場の大きさ含めての対応力というところとか、実際に経験するのは初めてだから手探りの部分はあるし、スタッフも初めての経験が多いから結構戸惑ったんですよ。それが1年前の西武ドームでした。
さらにそれを受けて1年後に日産スタジアム6万人でやった時に、それなりにデカイとか、野外とか、色んな部分での心構えとか準備とか、そういう部分に対してはやってきたつもりだったんですけど、でも実際に1ライブ終えてみないと見えないこととか、分からなかったこと・気付かなかったこととかが結構見えてきて、表向きに出てないところも含めて反省点とかが相当出てきたのは、正直なところの事実なんですよ。そこはスタッフ的な部分も大きいんですけど、去年の夏の西武が終わった時に夜中の3時くらいまで反省会をやったんです」
――夜中の3時まで反省会ですか?
「ええ、スタッフで。浮かれてばかりじゃいられないと。実は今年の日産もそれに次ぐくらい、スタッフ周りでは『これを次に生かさないとね』という反省会はありました。リーダーの百田(夏菜子/赤・リーダー)なんかともライブが終わった後に話をしたんですが、『反省がないと成長がないよね』なんていうことを言うんですよ、生意気に(笑)」
――え? それは佐々木さんが言った言葉ではなくて、百田さんが言ったんですか?
「そう、僕じゃなくて(笑)。『いやあ、いろいろ反省が出ちゃったなぁ。オレらも次頑張るから、色々と頼むな』ということを夏菜子と話してたんですよ。そうしたら夏菜子が『反省がなくなったら終わっちゃうじゃん』って(笑)。『お前、いいこと言うねぇ』みたいなことで、割とメンバーの方が僕らよりも大人だったりするんですけどね。でも、やっぱりみんなプロなので毎回反省はあるんですけど、その反省の部分が大きかった大会だったと思います。
だけど、日産という日本でも最大規模のスタジアムでライブをやって、その経験値と反省的なもの、つまり次に生かす糧というか、次に生かすための宿題が生まれたんですよね。そうすると、次に日本最大級のスタジアムでやったときは、やはりこの自信というものは大きいと思いました。去年夏の西武で生まれたものが、今年春の西武に実はすごく生きたんですよ。それはスタッフもそうだし、メンバーもそうだし、もちろん演出の僕もそうだし、だから今回のこの初めての日産スタジアムという初めての経験は、絶対に次のステップにつながると思っています。反省とともに宿題が生まれて、そこが次の伸びしろになるというか。『失敗と書いて成長と読む』ということを、たぶん野村克也さんがおっしゃっていたと思うんですが、別に日産大会は失敗ではないんですが、そういう反省を常に持っていないと僕らはダメだなぁと思っているところがあります。
でも一方で、終わってみれば全体的に通して見ると、すごく楽しかったし、あーりん(佐々木彩夏/ピンク)とかが言っていたんですが、花火大会のようにバーっと弾けて、バーっと終わって、あー終わっちゃった、寂しいなって思っちゃうくらいの、一瞬の夏の夜の出来事みたいな、そういうことにはなったんじゃないかなと思うので、そういう意味での満足はありますね」
「スポーツというキーワードが必然的に出てきた」
「そうですね。毎年、バカ騒ぎというのは夏のメインテーマなんですが、このメインテーマに沿って考えたときに、単にバカ騒ぎをやるのではなくて、ある意味バカ騒ぎを神聖なものにするというか、そういう気持ちで臨みたいというか、僕らはただバカになって頭のネジを外して騒いでいるだけじゃ、ダメなのかなと。そうじゃなくて、1年前、2年前のももクロだとまだ世間に届いていない部分が結構あったので、モノノフさんとか含めて仲間で楽しく元気に騒げればいいなぁというところから、去年紅白に行き、ももクロが割と国民的なアイドルに近付けた中で、ももクロの存在意義がちょっと変わってきたと思うんですよ。マスコミの注目度も高くなるし、そこにバカ騒ぎという今までのコンセプトを守るためには、このバカ騒ぎを神聖なものにした方がいいかな、しなければいけないなと。
じゃあ、このバカ騒ぎで何ができるのかと言ったら、みんなが笑えて、ハッピーになれて、結果元気になれるというところが、やっぱり原点なんですが、そこがももクロの一番の部分じゃないですか。ですから、バカ騒ぎすることが目的ではなくて、バカ騒ぎすることで頭のネジを外してみんなで騒ぐことで、全体が元気になれればいいかなと。日本全体を元気にするということではなくて、それを見てくれたひとりひとりが元気になれば、必然的に日本が元気になるじゃん!ということの手助けができたらいいなぁと思っていました。今、日本もいろいろとありまして、もっともっと元気にしなきゃいけない。それがももクロの役目だから。多くの日本の方々にももクロというグループの名が浸透するようになってから、ももクロがやらなければならないことっていうのはある程度僕らの中では持っていて、そんなにたくさんのことができるわけじゃないけど、じゃあ何ができるのかと言ったらそういうことなんだなと。そこを僕らは単にその場のノリとかではなくて、しっかりそういうことを念頭に置いて、今のももクロなら日本を元気にできるから、それはやっていった方がいいかなということで今回こういうプランにしたんですね。
そこに今回、日産というものが乗ってきたので、だったらももクロというアイドルの少女たちの元気な笑顔だけじゃなくて、日産とうまく共存していくやり方を模索して、やはりスポーツというキーワードが必然的に出てきたというところです」
――必然というのは、やはり日産スタジアムという会場からスポーツを連想された部分が大きかったのでしょうか?
「それはもちろんあるでしょうね。あとは、日産スタジアムという、日本でもスポーツの象徴的なスタジアムじゃないですか。サッカーのワールドカップ決勝戦を行った場所でもあるし、そういう意味で言いますと、ある意味スポーツの神様がそこにいたわけじゃないですか。そういう神聖な場所に僕らが足を踏み入れたときに、スポーツの神様に対して『どうもアイドルです。好きなことやらせてもらいます』ということではないのかなと。やはり礼をちゃんと尽くして、自分らにできる使い方、リスペクトということも含めてやらないと。もちろん毎回そうなるかと言えば、そうではないかもしれないですが、今回初めて日産でライブをやらせてもらって、じゃあ『日産スタジアムの神様、私たちがももいろクローバーZです。よろしくお願いします』という挨拶をするとき、やはりスポーツというものは無視しない方がいいなということですね。
日本武道館のときも男祭り(2012年11月5日)でそういうようなテイストでやらせてもらったりもしたんですが、神様って大げさなんですけど、そこに根差すものが何かあるじゃないですか。日産なり、さいたまスーパーアリーナなり、独特の会場の持っている地の霊と言ったらこれも大げさかもしれないですが、そういったものと上手にお付き合いしていき、そこがエンターテインメントに変わると面白いんじゃないかなという考えは常にあるんですよね。僕もそうですし、スターダストの川上アキラ(ももクロのマネージャー)さんも。
ただ、サッカーだけに寄せるつもりはなかったですね。今、2020年東京五輪の招致活動をされていますけど、僕なんかはぜひ東京にオリンピックが来てほしいなと思っていますし、そうやってオリンピックとかスポーツ競技って世界中を元気にするじゃないですか。そういったものをイメージしていたのは事実です」