『ももクロ×スポーツ』その融合と親和性=演出家・佐々木敦規氏インタビュー
「一生懸命とか全力、汗とか涙がアスリートとももクロは共通する」
9月3日には楽天のホームゲームで始球式に挑戦、エース・田中将大(左)も大絶賛だった 【ベースボール・タイムズ】
「うん、やっぱりそうですよね」
――はい。そのことを考えると、ももクロちゃんたちもロンドン五輪に出場していたアスリートと同じで、メンバーの動きを見ているだけで元気が湧いてくるのを日産大会でも感じました。
「一生懸命とか全力とか、何か1つの目標に向かっている姿とか、そういうものがアスリートとももクロって共通するところがありますね。汗とか涙とか、ちょっと古臭い言葉だけど、そういうことがスポーツには絶対にあるし、ももクロにもそれがある。それは僕らが作り上げたものではなくて、彼女たち5人が持っている自然な姿だから、ファンの方もそこに気がついて乗ってくれるんだなと思います。そういう一生懸命さとか汗とか涙みたいなものとスポーツは、物凄くいいバランスでももクロと調和されている。
じゃあ『スポーツは言葉じゃないよ、見れば分かるさ』という、そういう部分って実はももクロもそうで、見れば分かるというね。決してアーティストとして完成されたグループじゃないですよ。歌もそこまで特別うまい子たちじゃない、踊りだってまだまだこれからの子たちです。そんな中で、じゃあ何がみんなに喜んでもらえるかと言うと、多分ひたむきさとか一生懸命さとかなんです。僕たちがおじさんになってちょっと忘れかけていた青春時代のほのかな思い出が、彼女たちによって呼び起こされる。そういうものがあるから、割とスポーツとももクロというのは必然的な感じがしますね」
――そうですよね。それこそ佐々木さんのラジオ番組(sora x niwaFM『銀座 BODYSLAM BOYS』)で川上さんが「今回の日産はももクロとスポーツの融合です」というようなことをおっしゃられていたと思うんですが、そこで普通だったらアイドルや芸能人とスポーツの融合と言われてもピンと来ないんですが、これがももクロちゃんだとすんなり受け入れられるというか、別に変な感じはしないんですよね。
「ハハハ、そうですよね。今まで培ってきたものって大きいと思うんですよ。“ももクロと何か”と言ったときに、今度は始球式をやるみたいですけど、例えばももクロとプロレスとか、ももクロと相撲とか、ももクロとサッカー、ももクロと野球と言っても何か違和感が全くない」
――そうなんですよね。
「それは、例えば7番勝負(トークイベント『「ももクロ試練の七番勝負』)とかでもそうだけど、これは川上さんの方針だと思うんですが、要するに異種格闘技戦を色んなところに仕掛けていって、色んなものとコラボレーションして、彼女たちはそういうエキスをいっぱい吸っているんですよね。お相撲さんのエキス、武藤敬司のエキスとか(笑)。こないだもサッカーの北澤豪さんとか福田正博さんのエキスをもらって、布袋寅泰さんのエキスをもらって、春には坂本冬美さん、南こうせつさん、いろんなエキスをもらってるわけじゃないですか。それはやっぱり大きいでしょう。この子たちはまだ出てきたばかりの芽みたいなものですから、そこにどんどん先駆者たちの色んなエキスが入っていくとどれだけ成長していくかを考えたら、すごく大きいと思いますね。対外的に色々と仕掛けていった成果が、周りにいる人たちに違和感を覚えさせないのかなという気がしますね」
武井壮との100m対決、夏菜子は「絶対にやだ!」
「実はたいして運動神経は良くないっていうね(笑)」
――はい(笑)。百田さんと玉井(詩織/黄色)さんは運動神経はいいと思うんですが……。なので、スポーツとの融合って意外と嫌がるメンバーの方もいるのかなと。生バンドと共演した春の西武ドームとはガラッとテイストが変わった部分もありましたし。
「そうですね。色で言うと、ピンク(佐々木彩夏)と緑(有安杏果)はあまりスポーツが得意ではないというところがありますね。僕が演出するものに関しては多分、メンバーの子たちは何かしらの覚悟をしていると思うんですよ。特にアーティスティックな一面を出すライブと、僕がやるようなアーティスティックな面とエンターティナーな一面とすべてが見れる総合的なももクロと、いろんなコンセプトの持っていき方によって色々な顔があると思うんですけど、僕がやるものに関してはおもちゃ箱をひっくり返したようなライブに基本はなると思います。その中で彼女たちは覚悟はしていると思うし、『逆に次は何で来るんだよ』みたいな高ぶりがあるので、『なるほど、今回はそう来たか』みたいな、そういう反応の方が大きいですね。
例えば、運動が決して得意ではないあーりん、杏果もそこに関しては逆に喜んで反応してくれましたね。もちろん、(高城)れに(紫)も夏菜子も玉井も喜んでくれましたね。逆に夏菜子なんかは100メートル走で対決をやるって言ったときは、『無理、無理、無理、無理、絶対に無理。できるわけないじゃん。やだ、やだ、やだ、絶対にやだ。絶対にやらないからね!』っていうスタンスなんですよ」
――えー、そうなんですか? 意外です。
「それは何かと言うと、夏菜子は本当に根っからのガチンコファイターなんですよ。真剣勝負しかできない。だから力を抜くことを知らないから、それまでに2時間半近く全力で歌い続けて、踊り続けて、走り回ってきたところに武井壮がいきなり出てきて真剣勝負をやれって言われても『体力的にできるわけないじゃん、勝てるわけないじゃん』って。でも、そういう中であえてやりなさいというハードルを持っていったんですね。夏菜子本人はやっぱり『無理!』って言うんですけど、基本は楽しんでやってくれてますよね。とにかく、メンバーからはよく言われますよ、『面白いの頼むね、楽しいの頼むね』って(笑)。だからそういう期待値があるから、メンバーにも楽しんでもらっているのかなって思います。その分、ハードルは高いですけどね。やることが多岐に渡っていますし。日産は特に色んな絡みもあって、イベントが多かったので大変でしたね」
百田夏菜子vs.武井壮、100m決戦秘話
「そうですね。もともと今回はサッカーだけじゃなくて陸上競技感も出したかったので、川上さんと話して、夏菜子をどこかで走らせようというのは頭にありましたね」
――僕はてっきり曲と曲の間とか、衣装替えの間に勝負をするのかと思っていたら、「BIONIC CHERRY」の途中でいきなり対戦が始まった。あの「BIONIC CHERRY」という曲は踊りも激しいですし、百田さんも相当きついと思うんです。そんな中に100m走対決を突っ込んでくるというのが、すごくおかしくて(笑)
「ハハハハハッ(笑)」
――はい(笑)。それで、先ほど佐々木さんがおっしゃっていたように百田さんは手を抜くことを知らないから、めちゃめちゃ思いっきり全力疾走して……
「軽々と抜かれていましたね(笑)」
――僕はステージサイドのゴール側で見ていたんですが、勝負が終わった後、百田さんは本当に悔しがっていたじゃないですか。ライブが本業のはずなのに。100mを走るだけでこんなに面白い人がいるんだ、って思いました。
「そうやって見てくれるのはうれしいですねぇ。『BIONIC CHERRY』って、間奏の踊りがクラウチングスタートから始まるというところがあったから、もう100m走やろう、夏菜子を走らせようとなったとき、すぐその場で『BIONIC CHERRY』だなって思ったんですよ。だから、この『BIONIC CHERRY』をどこに持っていくかとか、対戦相手を誰にするかというのがその後のテーマになってきました。それで今回、武井さんに頼んで良かったし、彼がすごく売れている理由が分かりましたね。本当に良かったと思いました」
――それはどういったところからでしょうか?
「僕はバラエティの仕事もしているので、何回か一緒になったことはあるんですけど、ちゃんと向き合ったのは初めてだったんです。一番の理由は、彼もガチンコ、真剣勝負しかできないんですよ。だから、決して手を抜かない。だけどやっぱり熱いから、夏菜子がそれまで2時間半歌い続けているから、例え20mのハンデがあったとしてもそれはアドバンテージがあるからって、武井さんはその間ずーっと走ってたみたいなんです」
――えっ!? ずっとですか?
「裏で100mを何本も走ってたみたいですね。そこでそれなりに自分を高めながらも、割と夏菜子といい勝負ができるような体力づくりというか、逆に自分を疲れさせるということをやっていたと、後で聞きましたね。それを聞いて、あぁ素晴らしいな、って思って、やっぱり人気者になる理由はそういうところにあるんだなって思いましたね。ももクロもおかげさまで世間の認知度が上がってきた理由の1つは同じように、そういうところにあると思うんですよね。決して力を抜かないというか、そういうところが武井さんとももクロは似てるなって思いました」
――その武井さんのエピソードはすごいですね。一方の百田さんも、そこでライブが終わるんだったら全力疾走も有りだと思うんですが、確かまだ中間地点ぐらいでしたよね。
「そうですね、まだ中間ぐらいでした」
――それなのに思い切り100mを全力疾走して、間髪入れずに中断していた曲がまたスタートする。メンバーもメンバーで、れにちゃんなんかは百田さんの健闘を称えるどころか、指をさして笑ってるというシーンが、本当に面白かったですね。
「あの勝負は本当にガチンコだったので、『甘くみたでしょ?』っていう部分を負けた方にやろうねっていうのは出来上がっていて、夏菜子にやるか、本当は武井さんにもやりたかったんですけどね(笑)。ただ、あれは夏菜子は後半歌えないかもっていう可能性もあったんですが、ただゴールしたら曲はすぐに再開するから、夏菜子の両脇とかをみんなで抱えてでも無理やりステージに連れて行って歌わせろと、是が非でも終わらせろって(笑)、そういう話もしていましたね」
――それでは、そうやって百田さんが抱えられてステージに戻るというシーンがあったかもしれなかったんですね。
「そうそう、そういう場面が生まれたかもしれなかったですね」