『ももクロ×スポーツ』その融合と親和性=演出家・佐々木敦規氏インタビュー
「大前提はメンバーに経験させたい。だからサッカーも」
ももクロのステージ演出を務める佐々木敦規氏 【スポーツナビ】
「そうですね。サッカーはありました。これは日産スタジアムさん側と協議をしまして、我々もスポーツ、サッカー場とは初めての向き合いというのもあったので、それでは芝を残しましょうということに最終的にしました。それで芝をどうしましょうかとなったとき、サッカーをしようと必然的になりますよね。やっぱり、アイドルを好きなファンって、もちろんサッカーを好きなファンもいらっしゃいますが、ももクロのメンバーもそうなんですけどサッカーを生で見たことがない人も結構いるんじゃないかと思ったんです」
――まさしく僕がそうでした。スポーツ畑で働いている身でお恥ずかしいのですが。
「ああ、そうでしたか。だから、アイドルのコンサートを見に来ているというのは分かるんですけど、その中でサッカーを見たことのない人にサッカーを見せてあげるのもいいんじゃないかなと思ったんです。単に幕間で映像を見せたりするのではなくて、ハーフタイムサッカーみたいにして、ワールドカップの決勝戦をやったフィールドで、プロの人たちのサッカーの技を見せる・見るというのが、いい経験になるんじゃないかなと。だったら、サッカーやろうよと。その中でせっかくだからメンバーにもちょっとサッカーというものを経験させてあげたいなと思ったんです。いつも経験させてあげたいというのが大前提にあるので、だったら一緒にやろうということで『ピンキージョーンズ』の合間に参加させることになりました」
――そういう経緯だったんですね。日産スタジアム内に入って、最初に広い芝生のフィールドが目に飛び込んできて、そこで僕が思ったのはももクロちゃんのみんなが芝生に出て歌ったり踊ったりする場面もあるのかなと。周りからは「サッカーするんじゃない?」っていう声も聞こえてきたんですが、さすがにそこまではやらないだろうと思っていたら、本当にサッカーをしたので驚きました。しかも、メンバーまで参戦しだして、全然ボールに触らせてもらえない。そして最後はファウルで相手を倒したのに、両手を挙げて「やってないよ」ってわざとらしいアピール(笑)、子どものころ誰もが1度はやったことがある定番ムーブをやっているのが、すごく面白かったです。見事だなと思いました(笑)
「いやいやいや(笑)。要はサッカーをやりますとなったときに、ボールを持たせてもらえること自体が不自然で、そこはやっぱり遊ばれた方が絶対に面白いし、サッカーのすごさを見せているのに、メンバーが普通にボールを取れたりしたら、やっぱりおかしいじゃないですか。だから、そこはみんなに『お前ら簡単に遊ばれるけど、頑張ってボールを追っかけなさい』としか僕は言ってないです。それで彼女たちはボールを追っかけるだけ。もちろん、最後にファウルをするのは台本でしたけど、基本は全部ボールを追っかけなさいと。だから北澤さんとか、福田さん、藤田(俊哉)さんは面白がってメンバーにあえてボールをパスするんですよ。でも、ボールを持たせたところをすぐにまた取って、という遊びをちょっと入れてくれたりとか、そこは面白く作ってくれたなぁってプロの方たちに感謝していますね」
「まあ、いいですよ、最悪当たっても」
「確か、あの『ピンキージョーンズ』のあとは『Chai Maxx』でしたよね?」
――はい、「ピンキージョーンズ」から「Chai Maxx」でしたね。
「そのあとの『キミノアト』はバラードだから、息を切らしてなんてできないですからね」
――そのサッカーにしても、いわゆる茶番のようにグダグダで終わらせるのではなく、メンバーみんなが曲の途中なのに全力でぶつかっていく。そういう姿を見ているのが非常に楽しかったです。
「だからあのフリーキックも、やっぱりプロの方の蹴ったボールが頭の上を越えていくというのは、サッカー選手以外はたぶん誰も経験できないじゃないですか。でも、経験させたかったんですよ。それが何に生きるんだ?というね」
――確かにそうです(笑)
「プロのフリーキックのすごいシュートが頭の上を通過していく、それの何が経験になるの?って言われても、僕も分からないんだけど、絶対に何かプラスになるっていう自信があったんです。でも、その時の経験値とか目の前で見たものが、絶対にこの子たちに生きてくるなって思ったから体験させたかったんです。それで川上さんも『やらせましょう!』って言ってくれて、でも怖いのが、万が一失敗して顔とか直撃したらヤバいからこれはどうしよう?って色々と考えました。万が一何かあったときは周りの選手がガードに入るとか、あとはみんなに『ボールが来たらちゃんと顔を隠しなさい』とか、そういう指導はちゃんとしていたんですね。でも、それがあっても万が一というのはあるじゃないですか。そうしたら川上さんは何て言ったと思います?」
――ちょっと想像がつかないですね。何とおっしゃったんですか?
「『まあ、いいですよ、最悪当たっても』って(笑)」
――ワハハハハ(笑)。それ、本当ですか?
「ええ、『しょうがないですよ、当たっても』って、川上さんが(笑)。でも、もちろんそれは当たることが前提ではないですが、そこまで覚悟をしてるんですよ、あのマネージャーは。だから、こういうことができるんですよ、僕らも思い切ってできる。マネージャーとかプロダクションに覚悟がなかったら、あそこまでできないですよ。100m走らせるとか、その後に『怪盗少女』でエビ反りもやらなきゃいけない中で。まずは本業のパフォーマンスがあっての余興じゃないですか」
――おっしゃる通りだと思います。ライブパフォーマンスが有ってこそのものだと思います。
「でも、パフォーマンスも余興も、茶番と言われているものも、すべてひっくるめてももクロのエンターテインメントだから、すべて力加減ができないんですよね。だから、フリーキックに参加することに手を抜いちゃったら、他も手抜きに見えちゃう。余計にハードルが高くなるんです。だから、100mも一生懸命やる。猫ひろしもマラソンを一生懸命走る。一生懸命サッカーをする。フリーキックも手を抜かない。ということをやらないと、たぶん霞んで見えちゃうというか、ももクロで見せたい全力のエンターテインメントが成立しない。フリーキックをするときに手を抜いて、最初は蹴らないで違う方向にパスを出してシュートをしようとか、色んなことを考えていたんだけど、それじゃあ面白くない、やっぱり頭の上を通過するのがいいよね、って話になりましたね。でも、まあ怖くて、万が一当たっちゃったらどうしようって……。やっぱり、事故を考えますよね」
――そうですよね。僕もあのフリーキックを見ていて、メンバーが壁になったとき、本当にやるのかな?って。
「思いますよね?」
――ええ。でも、そこまでが誰もが真剣にやっていたので、これは本当にやるんだろうなって。でも本当に心配でした。
「そうですよねぇ、心配ですよね。でも結局、メンバーのみんなには申し訳ないけど、川上さんが最終的に『最悪当たってもいいですよ』って軽く言ったんですよね。ただ、その覚悟は見事です。だから、ああいうことができたんですが、もちろん事故が起こらないような万全の対策はしてきましたけど、やっぱり最終的には“覚悟”ですよね」
――あ、よくよく思い返してみたら、あのフリーキックは2回も蹴ってますよね?
「あれは三浦(淳寛)さんの完全なアドリブです。あえて外して、メンバーをビビらせたんだと思います(笑)。たぶん、北澤さんの入れ知恵だと思うんですけどね(笑)」
――1回目のキックは割と大きめのボールを蹴って、あぁやっぱりプロだからその辺は気をつけてくれたのかなって思っていたら、またボールをセットして蹴り出して(笑)。あれはビックリしました。アドリブということは佐々木さんもご存じなかった?
「そうです。まったく知りませんでした。1発で決めるもんだと思っていましたから。まさか、あそこで2回も蹴ってくるとは、って(笑)。でも一応、サッカー担当の制作の人間がいて、遊んでくれとは伝えてあったので、そういうアレンジを加えてくれたんだと思いますね」
※次回9月13日掲載予定のインタビュー2回目では、猫ひろしのフルマラソン挑戦で見えた感情を呼び起こす新たな手法、聖火台に火を灯した意味、ももクロとオリンピック、12月23日開催のももいろクリスマス2013の展望、そして復活を果たした新日本プロレスのファンとモノノフが持つ共通点などに斬り込みます。
佐々木敦規/ささき・あつのり
現在は制作チーム「Film Design Works」の代表としてテレビ朝日「ももクロChan」、ももいろクローバーZのライブ演出やMV、ライブDVD制作などにも関わる。
ももいろクローバーZ 2013秋ツアー(仮)
長野 10月4日(金)長野ビッグハット
福岡 10月14日(月・祝)マリンメッセ福岡
岡山 10月18日(金)岡山市総合文化体育館
愛媛 10月20日(日)ひめぎんホール
大分 10月26日(土)別府ビーコンプラザ コンベンションホール
徳島 11月2日(土)アスティとくしま
宮城 11月22日(金)セキスイハイムスーパーアリーナ
2013年09月21日(土)10:00 一般販売受付開始
全席指定¥7,500(税込)各公演おひとりにつき2枚まで