若手の成長で感じる“脱・木村依存”=世界戦で自信深めた宮下、長岡ら

田中夕子

「東京五輪では中心選手でありたい」

世界の強豪との連戦を通して、自信を深めた宮下(左)と長岡(右) 【坂本清】

 自信を得たのは、長岡だけでなく宮下も同じ。自身にとってほぼ初めての国際大会となったワールドグランプリ、特に仙台ラウンドでは課題や不安が常に先行していた。

「所属チーム(岡山)では、バックアタックをコンビに取り入れないので、バックアタックをコンビに取り入れることが未知の世界。グランプリが始まっても、ちんぷんかんぷんで、スパイカーに迷惑をかけてしまいました」

 5日間で5試合を戦うワールドグランプリの決勝ラウンド、その数日後から同じく5日間で4試合を戦う世界選手権のアジア予選。過酷な日程に、疲労は蓄積していたが、経験を重ねるにつれ、プレーも思考も目を見張るほどの変化を遂げた。
「だんだんコツもつかめてきたし、スパイカーも自分のクセ、こういうときはこういうトスが上がってくる、とわかってくれたので、今はバックアタックを絡めたコンビが1つの武器になってきました。特に長岡さんのバックアタックは、自分も思い切って使えたし、イメージに近いトスも何本か上げられたので良かったです」

 タイのキャテポン・ラッチャタギャングライ監督は「若いが、日本が勝利するためのキープレーヤーで、将来がとても楽しみな選手」と宮下を称賛し、真鍋監督も「日々前進している」と言う。

 経験を最大の武器とするポジションで、まさに今が、成長の過程でもある。
「木村さん、江畑さん、新鍋さんは五輪も経験していて、心強い存在だけれど、その選手たちだけに頼っていては絶対に勝てない。これからは、私を含めて、新しい選手のレベルアップがとても大事だし、みんなで日本を強くして、世界のトップを狙いたい。7年後の東京五輪では中心選手でありたいです」
 迷いのない言葉と、しっかり前を見据えた目。わずか3週間前に不安で涙した姿とはまるで別人のように、確かな自信がみなぎっていた。

強くなるためにすべきこと

 4戦全勝で世界選手権の出場権を獲得したことだけでなく、7年後の東京五輪でも中心となって戦える10代、20代の選手が台頭したのは喜ばしいことであるのは間違いない。

 だが、それは日本だけではない。
 中国、ブラジル、セルビア、イタリア、米国。ワールドグランプリで対戦してきた強豪国もそれは同様であり、さらに高いレベルで飛躍を遂げている。3年後のリオ、さらには7年後の東京へ向け、若手選手の強化は最重要課題でもある。

 加えて、アジアで勝つことが目標ではなく、世界で勝つチームになるためには、詰めなければならない課題はいくつもある。
 あまり目に留まるプレーではないかもしれないが、相手からチャンスボールが返された際、処理が雑になり攻撃陣が生かしきれない場面や、アタッカーが打ちきれない二段トス、バックアタックに入ろうとしている選手の助走コースを塞いでしまう場面も目立った。
 もっと強くなるために、チームとして何をすべきか。

 木村はこう言った。
「今シーズンは(全日本が)初めての選手も多いので、全員が世界を経験することが一番大きいんですけど、その経験をした後からどういう戦い方をしなきゃいけないかがすごく大事。チーム力ももちろんですが、個々の技術を高めることが、チームのレベルアップにもつながるんだと思います」

 どんな相手に対しても、誰が出ても変わらぬ力を発揮すべく、どれだけ強固な土台をつくれるか。ここからが、真の戦い、挑戦の始まりでもある。

<了>

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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