山形の点取り屋・林陵平が重要視するもの=地道な筋力強化が生んだ6月の活躍
イブラヒモビッチには会えなかったが
得点後、ゴールパフォーマンスで海外選手のまねをする林。地道な筋力強化が実を結び、6月に得点を量産した 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
パリを訪ねたのは練習日。雨と寒さの中、練習後の出待ちで3時間も待たされた。何人かの選手とは一緒に写真を撮ることができたが、結局イブラヒモビッチとの接触はかなわなかった……そんな話を嬉々(きき)として話す。「いやー、いい経験でした。サポーターの気持ちにもなれたし。今後のファンサービスも大事にしていきたいなと思いました」。“サッカー小僧”と呼ぶには大きすぎる、186センチの体の多くの部分に、まだそうしたピュアなものが宿っている。
林がJ2のJリーグ月間MVPに輝いたのは、J1が中断していた6月。5試合6ゴールの活躍でJの舞台を独り占めにした。5月にシーズン、初ゴールを含む3得点を挙げていた林は、6月最初のジェフ千葉戦にPKで得点。中央へのチップキックという大胆な選択で3−1の勝利に貢献した。続く徳島ヴォルティス戦では得点がなかったものの、ザスパクサツ群馬戦で1得点、松本山雅戦と水戸ホーリーホック戦では共に2得点とゴールを量産した。
6得点のうち、PKが2つ、クロスなどからのワンタッチゴールが3つ。ポジショニングや相手との駆け引きでゴール前に入り込み、味方もその動きを信じてボールを預ける好循環が見られた。それまでチームには不在だった、ゴール前での強さと落ち着きを兼ね備えたタイプの点取り屋を得たことで、チームのパフォーマンスも全般的に好影響を受けることになった。
6月の山形は3勝2分けで勝ち点11を獲得。12位まで下げていた順位をプレーオフ圏内手前の7位まで一気に上げた。5試合すべてにフル出場した林自身も、翌7月最初のガイナーレ鳥取戦で4試合連続ゴールを達成。シーズン折り返しを待たずに、今季総得点をJ2柏時代の2010年以来の2桁に乗せている。
ゴールパフォーマンスと得点力アップとの関係
また、ちょうどこの時期に恒例となったのが、ゴール後のパフォーマンス。自他ともに認める「欧州サッカーフリーク」で、シーズンともなれば週末に録りだめした試合を1日2〜3試合観るのが日課となっている。その中から、気に入ったゴールパフォーマンスをチョイスし、1試合に1パターンずつ披露しているのだ。
6月は、リードされて追いつく展開となった群馬戦以外の3試合でミチュ(スウォンジー)、ファビオ・ボリーニ(サンダーランド)、アルベルト・ジラルディーノ(ジェノア)のゴールパフォーマンスを拝借している。やはり欧州サッカーに詳しいチームメートの石川竜也でさえも「いくつか分かるのもあったけど、終わったあとに陵平に聞いたりしたのもあった」と言うほど、その人選はマニアック。林によれば「ストックはまだまだある」という。
試合前日には「パフォーマンスの練習をしている」と真顔で話す林には、その姿を想像して吹き出しそうになったが、「そこまでのイメージがあるから得点が取れてるんです」と不敵な笑みとともに言葉を継いだ。林自身にとっても間違いなく、キャリアアップの今シーズンとなっているが、ここまでの道のりは決して順風満帆ではなかった。
今年の年明けすぐに一般女性と入籍。今オフの挙式に向け、式場の下見もすでに終えて実生活は充実していた。また、シーズン途中で柏から期限付き移籍した昨年の背番号39に代わり、完全移籍で臨む新シーズンの背番号は「8」を選択(理由は、末広がりの数字であることと、イブラヒモビッチがインテル時代に付けていたこと)。心機一転、充実のうちに走り出そうとしていた今シーズンは、しかしいきなりのアクシデントでつまずくことになる。