宮下遥と大竹里歩のコンビが示した可能性=ワールドGPで日本が得た収穫と課題

田中夕子

宮下と大竹のコンビは日本の武器になる?

可能性を見せたのが宮下(左)と大竹のコンビだ。精度を高めていけば、日本の武器となりうる 【坂本清】

 合っても、合わなくても、とにかくミドルを使う。決勝ラウンド初戦のイタリア戦は、まさにその成果と、宮下の努力が報われた試合でもあった。仙台ではほとんどなかった岩坂のBクイックやCクイックも積極的に使い、攻撃を通す。特にさえたのが、大竹里歩とのコンビだ。

 眞鍋監督が「打ち出しが速く、広範囲に打てる選手」と称するように、大竹は攻撃力を備えた若手の有望株。あまり目立ちはしないが、ブロックに跳んだ後もすぐさま開き、十分な助走を取ってから攻撃に入るのも、大竹の優れた一面である。単純なことのようだが、しっかり助走して、ジャンプすることで、ボールを高い位置でとらえられるだけでなく、より多くのポイントでスパイクを打つことができる。

「自分が動いてトスをもらえれば、遥もサイドも楽になるので、とにかく早く次の動きをしようと意識して(トスを)呼びました」(大竹)

 年齢の近い宮下と大竹は、行動を共にすることも多く、普段から他愛ない話をすることでコミュニケーションも深めてきた。まだ十分ではないとはいえ、宮下−大竹のコンビの精度が高まれば、間違いなく日本の武器になる。そんな可能性の片鱗をのぞかせたのが、この5戦でもあった。

世界の厳しさを知る木村が意識したこと

 メンバーが代わり、新生全日本としてスタートした今も、日本は速さを追求している。体格差で劣る日本にとって、相手ブロックが完成する前に攻撃をと思えば、スピードを追求するのは不思議なことではない。だがその「速さ」を意識するあまり、宮下のトスがピンポイントに飛んでくるトスになることもあり、アタッカーも「速く、速く」と動き出しを焦り、ジャンプが十分でなったり、突っ込みすぎてしまうことも少なくなかった。仙台では唯一、宮下とコンビが合っていた新鍋理沙も、マークが厳しくなった決勝ラウンドでは、思うような攻撃をできずにいた。

「しっくりこないというか、打てていない感じです。パスしてから攻撃に入るタイミングが、いまひとつ、つかみきれなくて。自分がパスした時の速さと、他の人がパスした時の速さが違うから、崩れた時にどのタイミングで入るか。いろいろ話をしているんですけど、なかなか合わない。難しいです」

 この状況を打破すべく、動いたのが木村沙織だ。サーブレシーブの返球や、チャンスボールの処理、ラリー中のパスなど、セッターに供給するパスはすべて高く返す。まだチーム全体に共通されているわけではなく、木村が個人的に意識していることだと言うが、その目的は明確だ。

「(パスを)高く返すと間ができるので、スパイクに入る余裕ができる。サイドの攻撃が速いので、遥が高いところでセットできればブロッカーも振れると思う。そういうところはもっと、ちゃんと意識したいです」

 世界で勝つことの厳しさ、難しさは誰よりもよく知っている。だからこそ、パスの処理だけでなく、チャンスボールを相手に返す際のターゲットなど、今大会の木村は、これまで以上に細かなことまで徹底していた。

「今大会で出た課題を改善して、もう一歩、二歩上のレベルのバレーができるようにしたいです」

 多くの収穫と課題を手にし、ワールドグランプリは閉幕。しかしわずか3日後の4日からは、来年の世界選手権出場を懸けたアジア予選が待っている。眞鍋監督は言う。「絶対に負けられない試合。全勝で乗り切りたいです」。
 限られた時間で、どう変わろうとするか。これからに向け、1試合1試合が貴重な財産になるのは間違いない。世界で戦うたくましさを携えるためにも。

<了>

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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