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バレンティンの本塁打記録に見るプロ野球ファンの成熟度

55本以上打つな……なんとも滑稽な論理

“聖域”超えを目指すバレンティン、野球界の空気もこれまでとは違う?
“聖域”超えを目指すバレンティン、野球界の空気もこれまでとは違う?【写真は共同】

 日本のプロ野球における外国人打者の存在価値とはなにか。多くの場合、その最大は長打力だろう。各球団は「本塁打をたくさん打ってほしい」という願いを込めて、パワフルな外国人打者に大金をはたく。例外はあるが、これが一般的だ。

 そう考えると、今年のウラディミール・バレンティン(ヤクルト)は、そういう外国人打者のニーズに応えた素晴らしい仕事ぶりを見せている。なにしろ116試合を消化した時点(9月1日現在)で52本塁打と、驚異的なペースで本塁打を量産しているのだ。


 しかし、かつての日本球界には不思議なところがあった。本塁打をたくさん打つことを期待された外国人打者がその通り本塁打を量産したとしても、その本数が“ある数字”に近づいた途端、球界が一転して「それ以上は打つな」という空気に変わってしまう。

 お察しの通り、その“ある数字”とは1964年に王貞治(巨人)が放ったシーズン最多本塁打記録、55本のことだ。出稼ぎの外国人打者にはぜひ多くの本塁打を打っていただきたいのだが、日本球界の象徴の一人である王の記録はいわゆる聖域であり、それを出稼ぎの外国人打者が更新してはいけない、つまり本塁打を打ちすぎてはいけないという、なんとも滑稽な論理だ。外国人打者にしてみれば、梯子を外されたような感覚かもしれない。

性懲りもなく過去の愚行が繰り返されるのか

 そもそもシーズン55本という本塁打記録が聖域扱いを受けるに至ったのは、王が残した数々の記録の中で、これが一番更新されやすそうなものだからだろう。他に王が保持する通算868本塁打や通算2170打点などの通算記録類は、長年の積み重ねが必要なため、それこそ出稼ぎの外国人打者が更新するのは不可能に近く、わざわざ聖域として守る必要がない。しかし、シーズン最多本塁打であれば1年間の爆発で更新できる可能性がある。


 実際、1985年のランディ・バース(阪神)と2001年のタフィ・ローズ(近鉄)、2002年のアレックス・カブレラ(西武)の三人の外国人打者が、この記録を塗り替えそうな勢いで本塁打を量産したことがあったが、いずれの場合も55本の聖域に迫れば迫るほど、先述した滑稽な空気が球界に漂い、最後の数試合は相手投手が勝負を避けるという、聖域を守るための四球攻めにあった。結果、バースは王に1本及ばない54本に終わり、ローズとカブレラは王に並ぶ55本を放ったものの、更新はならなかった。

 そして、今年のバレンティンである。現在52本塁打であり、55本の聖域にいよいよ迫ってきたわけだが、今回もまた性懲りもなく過去の愚行が繰り返されるのか。

山田隆道
山田隆道
作家。1976年大阪生まれ。早稲田大学卒業。「虎がにじんだ夕暮れ」「神童チェリー」などの小説を発表するほか、大の野球ファン(特に阪神)が高じて「阪神タイガース暗黒のダメ虎史」「プロ野球むしかえしニュース」などの野球関連本も多数上梓。現在、文学金魚で長編小説「家を看取る日」、日刊ゲンダイで野球コラム「対岸のヤジ」、東京スポーツ新聞で「悪魔の添削」を連載中。京都造形芸術大学文芸表現学科、東京Kip学伸(現代文・小論文クラス)で教鞭も執っている。

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