バレンティンの本塁打記録に見るプロ野球ファンの成熟度
近年のプロ野球ファンの民度はずいぶん向上した
また、バレンティンに対しては、過去三人の外国人選手のときにあったような滑稽な空気があまり感じられない。中でも顕著なのはプロ野球ファンの声だ。先日、日本経済新聞が行ったアンケート調査によると、バレンティンが王の記録を更新することについて「ぜひ達成してほしい」と答えた人が69.1%、「破られたらそれで仕方ない」と答えた人が27.1%も占めた。つまり、計96.2%のプロ野球ファンが肯定的なのだ。
僕としては、こういう空気になっていることが一番喜ばしい。プロ野球の歴史が長くなり、それにつれて情報量も増えたからか、近年のプロ野球ファンの民度はずいぶん向上したように思う。感情を優先して個人の記録を聖域化し、その競技本来の醍醐味を見失うことがいかにつまらないことか。何事も過去の愚行から学ぶことは多いのだ。
さらに、すでにいくつかの活字メディアに書かれていた「飛ぶボールのおかげでバレンティンの本塁打数が増えた」などといった記録にケチをつけるような論調の記事についても、プロ野球ファンの多くはその情報を正しく識別している印象を受ける。たとえ「飛ぶボール」と書かれていたとしても、それは昔のラビットボールのような高反発球のことではなく、正確には「(反発係数を基準より下げすぎていた違反球を基準通りに修正したことで、2011年〜12年のものと比べると)飛ぶボール」という意味であり、それでも2010年以前のボールと比べると今年のボールのほうが反発係数は低い。そういう括弧内に隠された情報を多くのプロ野球ファンが知っているため、否定的な記事に簡単に同調することなく、素直にバレンティンの記録更新を楽しみにしているのだろう。プロ野球ファンの民度だけでなく、彼らのプロ野球に関するメディア・リテラシーも向上しているのだ。
今の時代、単なる記録更新以上に大きな意味がある
さあ、バレンティンにはぜひとも早めに56本目の本塁打をかっ飛ばしてもらいたい。そして、プレッシャーから解放された中で、どこまで本塁打数が伸びるのかも大きな楽しみだ。今のバレンティンにとって怖いのは、故障による戦線離脱と打撃不振だろう。もともと、いったんスランプに陥ると長期化するタイプだから。
<了>