プロへの土台を作るユース年代の食生活=Jクラブに広がる食事を大切にする気風

川端暁彦

国見高校に見る「食育」の好事例

今では各クラブユースも「食育」を大切にし、全寮制や半寮制を採用するクラブも増えている 【写真は共同】

 Jクラブ側もスタートを切ってから20年を経て、「思ったよりも選手が伸びてこない」原因の一つを、食事に代表される日々の生活に求めるようになってきており、その改善に動きつつある。かつてガンバ大阪のアカデミーを統括していた上野山信行氏(現・Jリーグ技術委員長)は「練習後に食事を取らせる環境があれば、宮本恒靖氏の身長はもう少し伸びていたはず」と、改善に乗り出していた。根本的な解決策として全寮制の採用に踏み切るクラブも着実に増えている。G大阪ユースは2011年度の新入生から追手門学院高校と提携しての全寮制に踏み切ったが、それ以前から京都サンガF.C.、アルビレックス新潟といったクラブも全寮制を採用した。以前から採用しているサンフレッチェ広島、ジュビロ磐田、鹿島アントラーズといったクラブもある。ガイナーレ鳥取のように一部の選手が寮生活という「半寮制」とでも言うべきクラブも珍しくなくなった。

 一方、高体連、つまり部活のほうはどうだろうか。近年では、長崎県立国見高校の全盛期の例が分かりやすいかもしれない。「食事もトレーニング」としていた小嶺忠敏総監督(当時)の話は、ともすれば精神論として解釈されてしまっていたが、そうではない。当時の長崎県では『長崎県スポーツ科学・栄養研究会』の管理栄養士による幅広い指導が行われており、国見でも寮食がこの管理下にあった。「まずは三度の食事。そして技術」というモットーの下、1日5000キロカロリーの摂取を目標に、3度のバランスの良い食事を志向。当時の国見は厳しいトレーニングばかりがクローズアップされ、食事の量や「食べられないやつはレギュラーになれない」といった話も、旧態依然の根性論として片付けられてしまっていたが、そうではないのだ。躍進の背景に徹底された「食育」があった。よく食べていたからこそ、国見は強かったのだ。

プロ選手を育てるために必要なピッチ外の環境

 これらは高校生年代の例だが、JFAアカデミー福島のように中学生年代から全寮制を敷くチームも出てきている。同アカデミーも管理栄養士による監督下で「ちゃんと食べなければ育たない」という気風が育っている。「予算さえあれば、ウチも中学年代から全寮制にしたい」と語るJクラブ関係者もいたので、近年の小学生に対するJクラブのスカウト活動の活発化と合わせて考えると、今後は大きな広がりが出てくるのかもしれない。

 いまから5年ほど前のこと。ある強豪Jクラブのジュニアチームに着任した監督が、就任早々の練習から引き上げると、選手たちがおもむろに自分のカバンからスナック菓子を取り出して食べ始めるという光景を目撃。「良い素材が集まっていても、これが当たり前になっている環境ではプロ選手なんて育つはずがない」と戦慄(せんりつ)したという微妙に笑えないエピソードをこっそり教えてもらったことがあるが、今後はこうしたことも少なくなっていくだろう。選手は1日120分の練習だけで成り立つわけではない。日々の生活こそが肝要。「食べなくては、育たない」のである。

<了>

8月24日(土)放送のFOOT×BRAINでは、プロに学ぶ第2弾として、サッカー選手の栄養をテーマに正しい食事の取り方などをクイズ形式で紹介します。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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