加速違ったボルト、桐生らはリレーに期待=高野氏、朝原氏らが語る男子100m総括
貪欲に走りの研究をする桐生はまだ伸びる(朝原宣治)
100メートルで予選敗退となった桐生。今後、世界大会でもまれていく中でさらなる成長が期待がされる 【Getty Images】
今回はドーピングの問題で欠場しましたが、タイソン・ゲイ選手(米国)がいたら、本当にいい勝負になったという印象です。全盛期だった2009年のベルリン大会の時に比べると、体調は良くなかったためか、予選、準決勝、決勝の流れがあまり良くなかったですね。普通、予選で安心感や安定感を得て、準決勝で勝利を確信、決勝で自分の走りを見せるというパターンで、北京五輪とベルリン大会を制したボルト選手ですが、今回は昨年のロンドン五輪のように、決勝でどう転ぶか分からないという流れになってしまいました。ただ、それでもちゃんと決勝には合わせられるところが彼の強さなのだと思います。
あと準決勝で10秒00を出した中国の張培萌選手の走りには驚きました。今シーズン10秒04を出して臨んだ世界大会で、10秒0台を出したのはすごい。それに準決勝は無風の状態でこの記録が出せたというのは本当に実力のある選手だと思います。
日本勢の2人についてですが、桐生選手は調整をこの大会に合わせてなく、インターハイを経て、一か八かの調整で臨んできたと思います。そこではまれば爆発したかもしれないですが、世界大会で一か八かがはまることはほとんどないと思います。ただ今シーズンはマスコミに追われた中でコンスタントに力を出し、海外の試合となったバーミンガムの試合と比べると、いい調整力を持っているなと思いました。
スタートの加速にしても、バーミンガムの失敗を克服しているようで、今後きっちり国際大会で調整できれば良い結果が出るのではないのでしょうか。多くの人は10秒01という記録がこびりついていますが、風の条件などを考慮すると、10秒20、10秒10辺りで走るのが現在の彼の実力だと思います。ですので、インターハイ直後の大会で、10秒31という記録はベストに近い結果だったのではないでしょうか。
それと、桐生選手には昨日会ったのですが、ボルト選手の練習を見たり、決勝レース1時間前には席を取り、貪欲に走りを研究する姿勢も見せていました。そのあたりが純粋で、これからも伸びるような気がします。
山縣選手については、どのような状況でレース中に肉離れを起こしたのかは分からないのですが、もし前日や当日に違和感があったのであれば、少なからず走りに影響が出たはずです。どうしても体が制御してしまうはずなので、タイムが落ちてしまうものです。ただ、違和感もなく絶好調な状態で臨んでいたのなら、満足できる結果ではなかったと思います。自分への期待を一身に受け過ぎて、期待を抱え込みすぎたのかもしれません。
レース前は体も絞れていましたし、顔つきも自分がやってやるという表情が見て取れました。ですので、けがが発生したと聞いて驚いています。ただ、スタートのリアクションタイムが遅かったのですが、少なからず、最初のフライングの影響があったのかも知れません。
山縣選手は最終日の400メートルリレーが欠場となりましたが、この影響は大きいかもしれません。オーダーがどのようになるか分かりませんが、変わって入る選手がキーマンとなるでしょう。出場する選手にはしっかり自分の仕事をこなしてもらい、日本チームの活躍を期待したいです。
今後けがをしないことが課題の山縣(加藤康博)
これは非常に意味のある9秒7台だと思います。それは来シーズンへの期待と、200メートルへの期待。9秒8台前半で勝てるとは思っていましたが、この結果は予想していませんでした。ただ09年のベルリン大会で9秒58を出した時と比べると、それほどの力は見せつけていないのですが、勝負に関しては圧倒的だったと思います。そう考えるとヨハン・ブレーク(ジャマイカ)やタイソンがいないというのが残念でした。
他国の選手に目を向けると、中国人選手が来ましたね。張培萌選手が10秒04で予選を走り、準決勝では10秒00。今まで、東アジアのスプリントは日本がリードしていましたが、いよいよ来たかという感じです。アジアの中で切磋琢磨(せっさたくま)するというのは面白いことですし、日本も若い力が出てきているので、良い刺激になると考えた方が良いですね。
日本の選手ですが、桐生選手は緊張していました。ありありと分かりました。ただ、評価すべき点は、バーミンガムで行われたダイヤモンドリーグでの走りで出た課題をしっかり克服していました。桐生選手自身も最初の10歩までは確認し、60メートルまでの加速は良かったと思います。ただそこから硬さが出てしまい、早くフィニッシュしたいという気持ちになってしまったようです。しかし、評価すべきは課題を克服できたことだと思います。準決勝に残れなかったことは残念ですけれども、ここで新たに手にした感覚や感触もあったので、評価してもいいのではないのかと思います。それに直前のインターハイで、9本のレースを走ったと言うことを考慮しても良かったと思います。
少し残念だったのは山縣選手の方ですね。彼は大きい舞台で力を出せる選手。調子も良かったはずです。ただロンドン五輪の時のようなベストな走りが出来ませんでした。レース直後の話でも、なぜこのような走りになったか整理できていませんでした。ただ、何より70メートル付近で肉離れを起こしながらのあの記録だったと考えるとすごいと感じます。山縣選手はけがが多いところが気になります。今後はけがをしないのことが課題になると思います。結果だけを見ると、ロンドン五輪からは後退となりますが、選手として大きくなる経験になってほしいと思います。後々、この予選敗退があったからこそ強くなれたと言えるようになれば、今後に期待が持てますね。
最終日のリレーは、山縣選手が2走に入る予定だったのですが、あまり大きくオーダー変えないのであれば藤光選手が入るのが順当かも知れません。ただ200メートルの結果を考慮して決めるのかと思われます。
山縣選手という柱は抜けましたが、今回はレベルの高い選手がそろっているので悲観をする必要はないと思います。200メートルに出場する選手がA標準を切っている選手なので、大きな戦力ダウンではないと思います。
<了>