非凡な得点感覚で前田の背中を捉えた柿谷=経験の差はインテリジェンスで埋める

元川悦子

代表1トップ定着へのカギ

前田は確実なポストプレーで日本代表の1トップに君臨する。今後、柿谷が争うのは前田か、それとも他のポジションか 【Getty Images】

「自分はそんなに体力がある方じゃない。真司君や乾(貴士)君は何がすごいって言ったら、数字をあれだけ残して、なおかつケガもせず試合に出続けて、90分間走り続けられるところ。それは選手としての武器ですよね」と柿谷は今季開幕前、しみじみ話したことがあったが、それくらい動き回れて始めて前線からの組織的プレスが成り立つのだ。

「点を取ることはFWの大きな仕事ですけど、それができたからOKかって言われれば違うし、90分間全てのことを求められる通りにできないとダメだと思う。そういうところまで行くにはまだまだ力が足りない」と柿谷本人にも強い自覚があるようだ。

 韓国戦ではなかなかボールが前に出ず、クサビを受ける回数も少なかった。1トップは相手の激しいプレッシャーにあっても確実にボールをコントロールし、タメを作って、味方の押し上げを促すような懐の深さも求められる。柿谷は自分の足りない部分をいかに埋めていくのか……。それが代表1トップ定着への大きなカギになりそうだ。

「相対的に見ればセカンドトップの選手」

 しかしながら、柿谷は1トップにとどまらない幅広さを備えた選手。トップ下でのプレーも十分可能だ。「個人的には、時間が経てば1トップとトップ下の両方できると思う。現時点ではセンターFWで起用したいが、もともとトップ下の選手だと聞いているし、技術と視野の広さを持っている。相対的に見ればセカンドトップの選手なのかなと思っている」とザッケローニ監督も語り、大会期間中に何度かトップ下で練習させている。

「一番前はもちろん裏を常に狙う動きを求められていますけど、トップ下ならもう少しパス回しに参加することも大事。いろいろ探りながらのプレーになるだろうけど、複数のポジションをやれれば使われる機会も増える。自分のプレーの幅も広がるんで、いろいろできた方がいいと思います」と彼自身も意欲的だった。その多様性や万能性は大きなプラス要素といえる。

 とはいえ、ご存じの通り、トップ下は本田の定位置。香川もしばしば真ん中でプレーしているし、経験豊富なベテラン・中村憲剛も控えている。このポジションを巡る争いは1トップ以上にし烈を極めそうだ。「本田さんとは一度も一緒にやったことがないから、どういう感じなのか全然分かんない。でも左足がヤバいのは間違いない。フィジカルも強いですしね」と柿谷は本田に対するイメージを膨らませていた。

 柿谷は本田のように強靭なフィジカルでタメを作れる選手でもないし、中村のように多彩なスルーパスで決定機を次々と演出するタイプでもない。狭いエリアへ入り込んでゴールをうかがう香川とも異なるアタッカーだ。ただ、トップ下の位置からゴールを奪える選手がいれば、相手にとって脅威だし、チームにもこれまでにない色合いをもたらせる。柿谷の頭抜けたゴールセンスを生かすために、本田が前線に上がってタメを作り、2列目の柿谷が勝負するといった新たな組み合わせも考えられる。香川や清武弘嗣とC大阪で長くプレーして、意思疎通がスムーズに図れるのも有利なポイントだ。

時間との戦いに勝つためのインテリジェンス

 フルメンバーの代表定着を実現するために、どうしても不可決なのが連係である。柿谷がこの先、コンスタントに代表招集されたとしても、ブラジル本大会まで残された調整期間はW杯直前合宿を含めても、最大70〜80日あるかないかだろう。限られた時間で周りにフィットしていく作業は非常に難易度が高く、時間との戦いを強いられる。

 それでも彼は、今大会を通して周りの特徴をいち早くつかみ、自分の個性を出しやすい環境を作った。「洋次郎君が持ったら良いパスを出してもらう、工藤(壮人=柏レイソル)が持ったときはしっかり収めて裏に出す、元気なら足元に落としてドリブルしやすい状況を作ってあげるというふうに、自分の中でみんなの特徴を整理しながらやっていた部分はあります」と頭をクリアにしながらプレーしたという。そういうインテリジェンスがある柿谷なら、高いハードルを超えられるかもしれない。

 とり急ぎ、8月のウルグアイ戦(宮城)では、それが可能かどうかを試してみるべきではないか。コンフェデ杯の23人枠で柿谷が入れ替わるとしたら中村か乾だろうが、すでに実力がハッキリしている前田をあえて外して彼を使ってみるのも一案だ。

 東アジアカップで示した天才的な得点感覚を武器に、一気にザックジャパン不動のメンバーへとのし上がれるのか……。柿谷曜一朗は紆余(うよ)曲折を経て今、サッカー人生の重要なターニングポイントに直面している。この機を絶対に逃してはならない。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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