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萩野公介、自由形メダル獲得の意義
世界水泳バルセロナ2013

「チャンスをモノにできて良かった」

男子400メートル自由形で銀メダルを獲得した萩野(左端)。中央は金メダルの孫楊、右端は銅メダルのジェガー
男子400メートル自由形で銀メダルを獲得した萩野(左端)。中央は金メダルの孫楊、右端は銅メダルのジェガー【Getty Images】

 水泳の世界選手権第9日は28日、スペインのバルセロナで競泳がスタートし、男子400メートル自由形に出場した萩野公介(東洋大)が、3分44秒82の日本新記録で銀メダルを獲得した。同種目での世界大会メダル獲得は1960年ローマ五輪の山中毅以来。レース後、萩野は「自分にとって意味のあるメダル。トップの選手が出ていないなかでチャンスをモノにできたことは良かったと思う」と語った。


 今年4月の日本選手権で、前人未到の5冠を達成した18歳の潜在能力は計り知れない。日本人によるメダル獲得は厳しいとされる自由形での快挙。個人6種目に出場予定で複数メダルを狙う萩野にしてみれば、まさに絶好のスタートと言えるだろう。大会前から「日本記録(3分44秒99)は間違いなく破れる」と宣言していたように、その好調さを予選から見せつけた。前半は遅いペースで入ったため200メートル時点では4位だったが、後半は加速して3分46秒92と組1位、全体4位で決勝に進出。「前半はだいぶゆっくり入ったので、このタイムは上出来だと思う。決勝では3分44秒台を出したい。前半をもっと早く入れば狙えると思う」と手ごたえを口にしていた。


 そして迎えた決勝。萩野は最初の50メートルこそ26秒08の2位でターンしたものの、その後は「泳ぎがバタつき」前半の200メートルでは1分52秒57の5位とメダル圏外に落ちてしまう。「この種目で世界のトップの人たちと泳ぐのは初めてだったので、なかなか自分のペースでレースを運べなかった」と萩野は振り返ったが、そこから巻き返すことができたのは、確かな実力の裏付けだろう。4位で350メートルをターンすると、ドルフィンキックで突き放し、一気に2人をごぼう抜き。見事に2位でフィニッシュした。

メダル獲得がもたらす2つのメリット

 萩野がこの日、メダルを獲得したことは競泳日本代表に2つの大きなメリットをもたらす。1つは前述のように、日本が苦手としている自由形による快挙であること。そしてもう1つは、初日にメダルを獲得できたことだ。


 前者に関しては、手足の長さやパワーといった日本人に欠けている特徴が結果に反映されやすい種目であるだけに、これまでメダル獲得はほぼ不可能とされてきた。2004年のアテネ五輪で柴田亜衣が800メートルの自由形で金メダルを獲得しているが、男子に限れば53年前の山中毅以来と、世界大会ではことごとく壁に跳ね返されてきた。しかし、韓国や中国といったアジア勢がこの種目に強いという現実があるだけに、一概に日本だけが不利というわけではない。萩野も「アジア人が活躍している。日本人だからといってできないわけではないし、背が大きい・小さいは関係ない」と語る。だからこそ、萩野のメダル獲得が今後、「日本人は自由形で勝てない」という固定観念を打ち破る可能性を秘めているのだ。自由形の強化は日本競泳界の長きに渡る課題。萩野の結果がこれを克服することにつながるのであれば、大きな一歩と言えるだろう。


 後者については、初日のメダル獲得がどれだけチームに好影響を及ぼすかは、昨年のロンドン五輪が証明している。ロンドンでは、萩野が400メートル個人メドレーでマイケル・フェルプス(米国)を破り銅メダルを獲得。ここから勢いに乗り、日本は戦後最多となる合計11個のメダル(銀3個、銅8個)を勝ち取った。チームで戦う以上、良い流れは確実に各選手にも影響する。今大会に200メートルと400メートルの個人メドレーに出場する瀬戸大也(JSS毛呂山)も「1人が調子悪くても、周りがカバーして、どんどん良い流れにしていくことができる」とその利点を指摘していた。萩野がつけた勢いがほかの選手にも伝わり、好結果が続々と生まれる可能性は十分にあるはずだ。

1週間でどこまで進化を遂げるのか

 しかしこうした結果にも、萩野や平井伯昌コーチは満足はしていなかった。


「銀メダルというのはうれしいけど、タイムが思ったより遅かったので、自分の泳ぎには納得できていない。この種目で世界のトップの人たちと泳ぐのは初めてだったので、なかなか自分のペースでレースを運べなかった。今回経験できたので、もし次に出るときは、ばたつかないようにしたい」(萩野)


「今日は全レースが100分の何秒かの差で決まっているので、すごく運の良いメダルだと思う。反対に転んでいたら4位だったかもしれない。記録的にも3分43秒台を狙っていたので、ちょっと物足りなかった」(平井コーチ)


 萩野が見据える頂きはまだまだ高い。理想はフェルプスやライアン・ロクテ(米国)のような多くの種目で勝てるマルチなスイマー。その目標を達成するためにも、歩みを止めるつもりはない。以前、こんなことを話していた。「完ぺきじゃつまならい。何か欠けているからこそ楽しいんだと思う。負けたことでもっと強くなりたいという思いが出てくる」。目指したタイムに到達できなかった悔しさが糧となり、萩野をさらに成長させる。今大会はまだ始まったばかり。今後も5種目が控えている。大会期間の1週間で萩野はどこまで進化を遂げるのか。18歳の“怪物”がバルセロナの夏をより熱くさせるのは間違いないだろう。


<了>


(文・大橋護良/スポーツナビ)

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