人生最大の挑戦に挑む新旧バルサ監督=欧州が認めるマルティーノとは

工藤拓

数日で決まったマルティーノ新監督の就任

バルセロナで指揮を執ることになったマルティーノ。不意に訪れたキャリア最大の挑戦には驚かされたと語った 【写真:ロイター/アフロ】

 こうして再び人生を賭けた戦いに挑みはじめたビラノバと同じく、バルサも新たな一歩を踏み出した。ヘラルド・“タタ”・マルティーノの新監督就任である。

 ビラノバの電撃解任を受けた直後、国内メディアにはアンドレ・ビラス・ボアスやマルセロ・ビエルサ、ミカエル・ラウドルップ、今夏アシスタントコーチに就任したばかりの元ジローナ監督ルビなど、多数の名が後任候補として挙がった。

 だがほどなく、その候補者は2人に絞られる。クラブOBのルイス・エンリケと、先日アルゼンチン1部ニューウェルス・オールドボーイズの監督を退任したばかりのマルティーノである。

 現役時代に8シーズンバルサでプレーし、08〜11年までバルセロナBの監督も務めた経験があるエンリケは、グアルディオラ、ビラノバと続いたクラブ出身者の系譜を継ぐにはこの上ない選択肢だった。ただ彼には今夏セルタの監督に就任したばかりで、契約解除には300万ユーロ(約4億円)の違約金が発生する障害があったのだが、それでもカタルーニャのメディアはまだセルタが彼を監督としてリーグに登録していないため手続き上の問題はないとし、彼を最有力と予想していた。

 一方でマドリー系の『マルカ』『アス』紙は、ニューウェルスを率いてアルゼンチン後期リーグ制覇、リベルタドーレス杯準決勝進出といった成功を収めたマルティーノを第一候補に交渉を開始したと報道。実際にクラブは22日夜に行われたビデオ会議によりマルティーノと2年契約で合意に達し、23日昼前、公式HPを通して正式に新監督就任を発表するに至った。

認知度の低さからファンの賛同は得られず

 母国アルゼンチンでは“タタ(=本人も由来を知らない愛称)”と親しまれる彼はメッシの故郷ロサリオ出身で、地元クラブのニューウェルスで活躍した選手時代はメッシの父ホルヘもひいきした人気選手だったという。

 監督としてはニューウェルス時代に師事を受けたビエルサの影響を受け、ボールポゼッションをベースとした攻撃的スタイルを信望。ただ各上相手の試合では相手の良さを消す戦い方も見せるしたたかさを兼ね備え、パラグアイのクラブ・リベルタやセロ・ポルテーニョを率いて同国リーグを制覇した他、パラグアイ代表監督として10年のワールドカップ(W杯)でベスト8入り、11年のコパ・アメリカでは決勝進出といった実績を積み重ねてきた。そんな彼のことを、ある記者は「勝てるビエルサ」と形容していた。

 一方、これまでバルサレベルのビッグクラブはもちろん、ヨーロッパのクラブすら指揮したことがない点は不安材料として挙げられている。またファンの認知度が低いこともあり、就任決定前の時点でスペインの各紙が行ったアンケートでは彼の招へいに賛同する意見は軒並み50パーセントを下回っていた。

不意に訪れたキャリア最大の挑戦

 とはいえ先月にはレアル・ソシエダとマラガも新監督就任を打診し、レアル・マドリーもカルロ・アンチェロッティの招へいに失敗した際には代役候補に挙げていたというだけに、すでにヨーロッパのフットボール界でも彼の指導力が高い評価を受けていることがうかがえる。

 それはバルサの関係者も同じで、とりわけ同郷であるメッシ親子は以前から監督“タタ”を高く評価しており、今回の抜てきにも影響を与えたようだ。

 またマルティーノと共に契約したアシスタントコーチの1人、アドリアン・コリアはニューウェルスの下部組織に所属していた11歳当時のメッシを監督として指導した人物であり、メッシとしてはビラノバに続いて以前の指導者とトップチームで再会することにもなる。

 スペイン時間の23日夜、“タタ”は母国アルゼンチンにて会見を行い、不意に訪れたキャリア最大の挑戦について次のように語った。

「こんな機会は期待していなかった。ちょうど休みを取るべく、バカンスの準備を整えていたところだった。(バルサからのオファーには)もちろん驚かされたよ」

 その時ビラノバは、この1年半で3度目の手術に立ち向かっていた。

 ティトとタタ。美しいフットボールを愛する2人の指導者は今、共に人生最大の戦いに挑もうとしている。

<了>

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著者プロフィール

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

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