大儀見優季がなでしこで見せる成長の跡=心技体が響き合い進化する日本のエース
大儀見に進化をもたらした体幹トレーニング
より高いレベルを目指すために個の力を伸ばした大儀見は、当たりの強い相手にも負けない強さを手に入れた 【Getty Images】
11年のドイツW杯では、なでしこジャパンは世界一に輝いたものの、大儀見自身は、自分が思うようなプレーができずに終わった。「ストライカーとはこうあるべき」という強い思いで臨んだ大会でもあった。「でも、それは違った。あれから、そんな概念にとらわれず、自分らしいFWというものを考えて作っていけばいいのではないかと思うようになりました。あの経験があったからこそ、そう思えた」という。その後の彼女は、目を見張るほどの、急速なスピードで進化し始めた。
彼女に変化をもたらしたトレーニングのひとつが、インテルに所属する日本男子代表の長友佑都も取り組む、体幹トレーニング。世界一を取ったあと、日本がもっと高いレベルで戦うためには、個を磨かなくては――。そんな思いから、はじめたものだ。
初めてからわずか1年半ではあるが、ドイツで毎日コツコツ、1人で取り組んだ。シーズンを終えて帰国してからは木場克己トレーナーのもとに通い、直接指導を受ける。「しっかり毎日やってきた積み重ねが、体にしっかり出ています。普段は直接見られないので、こうして久しぶりに見るとその違いははっきりわかります。優季ちゃんは、今では女子というより、男子の域にきていますよ(笑)」と木場トレーナーもその成長ぶりに驚いている。
体幹の強化をした結果、当たりの強い相手にも負けないシーンが増えたのはもちろんのこと、ヘディング、ターン、ドリブル、シュート、すべてに変化が現れている。
「自分のイメージするプレーに、体が追いついてきたという感覚です」という。
心技体が充実し、しなやかな強さが備わる
「体の変化にともない、自分でも驚くようなプレーができる瞬間がある。今まで、できなかったプレーがあるとしますよね? でも、それが偶然にできたということに喜んでいてはダメ。それを感覚で終わらせるのではなく、今度はそれをきちんと言語化して、意識してできるようにして、自分のプレーの当たり前のレベルをどんどんあげていく作業を続けるんです。そうすることで、どんどんできることが増えていく」。そう話す表情は、本当に楽しそう。そうした変化と同時に、余裕が生まれてきている。その余裕が、今度はピッチ上で、“周りの人間をどう生かすか”、またチームメートの気持ちの部分にまで配慮をするシーンを増やしているようにも見える。どうすれば、仲間がいいところを出せるのか、どうすればそのプレーを引き出せるのか。その意識が強く働くようになっている。
これはほんの一例だが、今年のアルガルベカップ、ドイツ戦でのこと。初めてツートップを組んだ新人の田中美南の緊張を解くため、キックオフの笛が鳴る直前まであえて話さず、センターサークルで向かい合ったときに「大丈夫だから、思いっきりやりな」と、初めて声をかけた。すると、それまで硬い表情だった田中の顔が一気に笑顔になり、のびのびとしたプレーを披露。ドイツを相手にデビュー戦でゴールを決めることができた。「お陰でいっきに緊張がほぐれました」と田中も笑顔で振り返る。大儀見は、「あのタイミングで声をかけるのが一番効果があると思って」と笑う。
心技体。まさに、それぞれが響き合い、いいバランスで、ぴたっとハマり始めている。彼女を長年見続けてきた中で、今、それを強く思う。先月、自主トレを見に行くと、辛いメニューの終盤にもかかわらず、「私、伸びしろしか、ないよー!」。そううれしそうに叫んだのに驚かされた。きついトレーニングをも楽しめるメンタル。壁があっても乗り越えられる、むしろ乗り越えることを楽しめる、しなやかな強さが備わった。
新シーズンは、イングランド女子スーパーリーグのチェルシーLFCでのプレーが決まっている。「まだ誰も行っていない場所で、自分がチームを強くしたい」とそんな思いで選んだチーム。「フットボールの母国で、きっと自分の将来の財産になるようなものに出会えるはず」と期待に胸を膨らませている。
新天地での生活が始まる前に開幕する東アジアカップ。アジアの戦いにはまた世界とは違った難しさがある。しかし、世界チャンピオンとしての堂々たる姿を見せてくれることを楽しみにしたい。そして、目の覚めるようなゴールを決めてみせてほしい。
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