日本人若手、F1へのいばら道=赤井邦彦の「エフワン見聞録」第9回

赤井邦彦/AUTOSPORTweb

欧州挑戦に必要なモノ

 ただ、気持ちだけではヨーロッパに行くことはできない。家族や友人、あるいは若者の夢に賛同する企業の後押しが必要だ。しかし、それだけではまだ駄目だ。ヨーロッパでもまともなチームに加入できなければ、最初からお話にならない。日本からいいカモがきたと、お金だけふんだくってオンボロ・エンジンで走らせるようなチームもままある。しかし、初めてヨーロッパでレースを戦おうとする若者に、チームの善し悪しを判断する力などない。若者の多くが10代ということを考えれば、やはりその辺の情報に詳しい人物が寄り添っていなければだめだろう。

 ひとつ間違えば、数年前にイギリスでF3を戦っていたある若者のようになりかねない。彼はたった2台(シーズン中盤以降は1台)しか参戦していないビギナークラスでチャンピオンになったとおだてられ、翌年はGP3に参戦。家族は財産をはたいて支援したが、結局成績はついてこなかった。そうなれば当然メディアは見向きもせず、今やすでに忘却の彼方だ。若者の夢はいとも簡単に破れてしまった。そもそもその若者に本当に才能があったのかどうか、関係者は冷静に判断しなくてはならなかった。関係者は、若者の才能不足を見抜いてもそれを本人に伝えず、煽ったのではないか? 責任はどこにあるのか? 知識のないまま息子をヨーロッパに送り出した家族か? おだてた関係者か? それとも……。

“見守る”ことの大切さ

 この若者の場合はあまりにもかわいそうだが、誰でも同じ道をたどる可能性はある。今年も多くの若者がヨーロッパで将来のF1ドライバーを目指して活動を続けているが、とにかく真っ当で信頼の置ける人に相談をし、近寄ってくる不審者には気をつけた方がいい。不審者の狙いはお金と自尊心だ。F1ドライバーを育てた(本当に育った場合だけど)というプライドが欲しいのだ。そんなプライドは犬も食わないのだが……。

 こうした窮地に陥らないためには、ヨーロッパでレースをやりたいという若者本人と、その家族や支援者が、慎重に情報収集をし、自分たちで判断をすることが大切だ。そして、彼を支援する人たちは、やたらとSNSで騒がず、静かに見守ってやろうではないか。騒ぐのはF1のドライブを勝ち取ったときでいい。本当にその若者がF1で戦いたいのなら。

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著者プロフィール

赤井邦彦:世界中を縦横無尽に飛び回り、F1やWECを中心に取材するジャーナリスト。F1関連を中心に、自動車業界や航空業界などに関する著書多数。Twitter(@akaikunihiko)やFacebookを活用した、歯に衣着せぬ(本人曰く「歯に衣着せる」)物言いにも注目。2013年3月より本連載『エフワン見聞録』を開始。月2回の更新予定である。

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