議論を呼ぶ「闘莉王待望論」への解=名古屋の同僚が代表復帰に太鼓判

今井雄一朗

いまだJリーグで図抜けた存在

日本代表への待望論が沸き起こる闘莉王。東アジアカップメンバーへの招集はあるのか 【Getty Images】

 先のコンフェデレーションズカップで3試合9失点と散々な結果に終わったザックジャパン。世界トップクラスの攻撃の前に、無残に破られたDFラインへのテコ入れが急務とされる今、長らく代表復帰を待望されてきたDFの名前が盛んに語られるようになってきた。名古屋グランパスの田中マルクス闘莉王である。
 南アフリカワールドカップ(W杯)から3年、アルベルト・ザッケローニ監督指揮下では一度もプレーしたことはない(編注:2010年9月に招集されたが、負傷により辞退している)。しかしセットプレーの守備に代表される、空中戦でのディスアドバンテージが目立つ現代表において、闘莉王の高さと強さは魅力以外の何物でもない。それだけでなく、ビルドアップ能力においても、ロングフィードの精度においても、果てはFWとしても機能する得点力においても。あらゆる面で闘莉王は、いまだJリーグで図抜けた存在であり続けている。

 同僚にしてW杯4度出場の重鎮・楢崎正剛は言う。「今のセンターバック(CB)2人に代わってという議論とは別として、代表に選ばれるべき序列においては、入るべきレベルの選手ではある」と。W杯本番まで1年を切った今、再燃ならぬ「最燃」している闘莉王の代表待望論について、今回は代表経験者の言葉を手掛かりにしつつ、その可能性を考えてみたい。

「好き勝手にやっているわけではないよ」

 闘莉王が日本代表に待望されている。そう伝えると、「いいんじゃないですか」と答えたのは藤本淳吾だ。自らもザッケローニ監督指揮下で7試合出場1得点、現在の名古屋で最もザック流を知る男は、緻密な戦術的ルールが存在するチームへの合流にも太鼓判を押す。「戦術は細かいけど、そんなこと関係なしにトゥさんは個性が強い。大丈夫でしょう」
 闘莉王の個人能力の高さは、サッカーIQの高さという点においても桁外れだ。例を挙げれば、名古屋独自の厳格なゾーンディフェンスへの対応がある。闘莉王と同じシーズンに移籍してきた千代反田充(現徳島ヴォルティス)は、当時のJリーグでは最高クラスの評価を受ける優秀なCBだったが、守備戦術への適応に苦心し、わずか2年でチームを去った。一方で闘莉王はさらりと戦術に対応した上、自らの判断によるカバーリングを守備力に上乗せさせてみせた。

 ザッケローニ監督の戦術がどれだけ緻密で厳格なものであろうと、闘莉王はものともしないだろう。ただし自分の考えを戦術に反映させてしまう力を、監督によっては敬遠する場合もある。誰だって自分の作り上げた組織を変えられるのは嫌なものだ。だが、闘莉王という選手の本質を知る楢崎は、そうした懸念を一蹴する。
「アイツは規律を逸脱するようなイメージがあるのかもしれないけど、チームのルールは守った上での個人の判断をしているだけ。思っているほど好き勝手にやっているわけではないよ。しかもチームとしてのコンセプトがすでにある中では、それを尊重する選手。そのチームに長くいれば、自分の考えがアイツの口から意見として出るだろうけど、例えば今から代表に入ったとしたら、ルールは守った上でのプレーをすると思うけどね」

プレーに関するマイナス点はない

 戦術面での障害がないとするならば、どういった使われ方が考えられるか。それにはまず、現代表のCBの面々の特徴を再考する必要がある。現在のレギュラーは吉田麻也(サウザンプトン)と今野泰幸(ガンバ大阪)のコンビが鉄板。控えには栗原勇蔵(横浜F・マリノス)や伊野波雅彦(ジュビロ磐田)らがいる。この中で空中戦や1対1に強い、純粋なファイタータイプは栗原だけである。チーム最長身の189センチを誇る吉田は、本来はカバーリングに優れるタイプ。しかしコンビを組む今野が178センチと上背がないため、空中戦の一番手としての役割を担わざるを得ない。栗原と吉田が組めば良いのかもしれないが、今野のビルドアップ能力と稀有な危機察知能力も捨てがたく、現状では吉田と今野がファーストチョイスとなっている。

 ではここに、闘莉王が入ったとしたら……。間違いなく、空中戦ではチーム最強である。吉田と組ませれば、泣き所だった高さの面では完全に補完されるに違いない。しかも二人ともにビルドアップは得意とするところで、両CBから正確な縦パスが前線に入ってくる状況は、攻撃面でのメリットも大きい。コーチングも正確で、いまだ発展途上の吉田の教育係としても最適だ。スピードに難ありという評価も根強いが、現代表のメンバーで足の速いCBは伊野波のみ。スピードの問題は闘莉王に限った話ではない。つまり闘莉王が入ることでのマイナス点は、プレーに関してはないと言える。南アフリカW杯をともに戦った矢野貴章などは「みんなが頼ってしまうと、いないときにチームが力を発揮できなかったりすることにもなる」と、彼への依存度を心配するほど。「今でも日本トップレベルの選手でしょう。フィジカルもワールドクラスだし、世界レベルに対抗できる選手」と実力を保証する。

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著者プロフィール

1979年生まれ。雑誌社勤務ののち、2015年よりフリーランスに。以来、有料ウェブマガジン『赤鯱新報』はじめ、名古屋グランパスの取材と愛知を中心とした東海地方のサッカー取材をライフワークとする日々。

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