議論を呼ぶ「闘莉王待望論」への解=名古屋の同僚が代表復帰に太鼓判

今井雄一朗

チームメートを怒り、喝を入れられる選手

楢崎は闘莉王について「チームメートを怒れて、喝を入れられる選手」と評価する 【Getty Images】

 闘莉王の価値はプレーの質だけではない。今回、名古屋のチームメートで話を聞いたのは代表経験者の楢崎、藤本、矢野、そして玉田圭司の4人。彼らはそれぞれの立場からの意見を話してくれたが、全員が口をそろえて強調したのが、その存在感とパーソナリティーだった。
 玉田は「オレ、今は代表じゃないから」と、興味を示さなかったが、それでも「チームを動かす存在感はあるんじゃない」と答えてくれた。矢野も「たくさんの経験をしている選手だし、そういう選手がCBにいるのは心強い。キャラクターも含めて」と話す。藤本は前述の通りだ。ではそのパーソナリティーとは具体的にどのようなことか。これについては、楢崎の言葉が的を射る。
「チームメートに対して怒れる、喝を入れられる選手。ベンチに置いて生きるかどうかは分からないけど、ピッチ上での振る舞いだったり、コーチングであったり、そういう部分がみんなが待望するところなんだろうと思う」

 確かにそういった視点で現代表を振り返ってみると、ミスに対する反応が物足りないと感じる部分がある。ミスや失点に対しては「仕方ない、切り替えようぜ」という態度がほとんどで、「なぜそこでミスしたんだ!」という態度はあまり見られない。ミスを責めろと言うわけではないが、ミスを明確に指摘することは個人とチームの意識を高め、次の失敗を防ぐ処方箋ともなる。名古屋の練習ではいつも、闘莉王の厳しくも建設的な怒声が響いている。「なぜ同じミスをするんだ!」「○○(選手名)! わかるだろ?」。若手にも中堅にもベテランにも、分け隔てなく正論をぶつけられる選手の存在は貴重だ。ましてや代表レベルでも他人に要求できるだけの自信と実力を兼ね備えた選手はそう多くない。あくまで奇麗で前向きなサッカーをしようとする傾向の強い昨今の日本代表に、泥臭さと勝利への執念を植え付けられるという点でも、闘莉王は稀有で有用な選手である。

監督の一存という抗いようがない事実

 話を聞けば聞くほど、考えれば考えるほど、闘莉王の代表入りにデメリットはないように思える。そうなれば招集に対する“障壁”は詰まるところ、監督の一存である。厳格な戦術を“改変”してしまいそうな選手は避けているのか、単純に将来性を考慮した年齢の問題なのか、それとも……。「アイツだって入りたいやろうけど、日本国民全員が思ってても、監督が思わなかったら入らないからね」という楢崎の言葉は抗(あらが)いようのない事実だ。それは闘莉王自身もドイツW杯の際に経験済みで、重々理解している。
 しかし、だからこそ闘莉王は切実に訴える。02年の日韓W杯では中山雅史や秋田豊が、10年には川口能活(ジュビロ磐田)がチームを支えるバックアッパーとして選出されたが、その役割でも構わない。とにかくスタートラインに立たせてくれと、彼は心の底から願っている。
「もう、オレが何を言ったってしょうがないんだから。代表には監督が必要と思ったら選ばれるんですよ。自分にやれることは限られている。僕も経験があるんでね、ジーコのとき(06年)に。だから、とりあえずチャンスが欲しい。代表チームで監督が見てくれればそれでいい。勝負させてくれれば、力にならせてくれれば。前回のナラさんだって(本大会で控えに回ったとはいえ)ずっとスタメン争いをしていたわけだし。(スタメン争いは)自分の力でね。とりあえずでもいいから、競争させてほしい」

 謙虚な言葉の羅列だがその実、「呼ばれれば、スタメンを勝ち取る自信はある」とも聞こえる。その心境をおもんぱかる、楢崎の言葉が印象深い。
「普段、話をしていても、それ(日本代表)だけにこだわっているわけではなさそうだけどね。こうしてみんなが欲しているという状況を、今は楽しんでいるんじゃないですか(笑)。そういう大舞台に立つというのはサッカー選手の目標で、彼にとってもそうだろうしね。南アフリカのときは楽しんでやっていたけど、今度はブラジルということでモチベーションは前回以上にあるんじゃないかと思う。W杯後のアイツ? プレー自体はそんなに変わらないですけど、いろんな視点を持ってプレーするようにはなったと思う。まあ、オレは今の代表での闘莉王を見てみたいけどね」

闘莉王が変化をもたらすことは確実

 自らは後進に道を譲った男が、新世代が台頭してきた日本代表でもまだ闘莉王を見たいと言う。世界にインパクトを残した10年よりも「いろんな視点」を持った闘莉王が、祖国で開催されるW杯に出場すればどうなるか。確かに興味がある。前回大会の直前、「W杯に出てしまったら、サッカーでこれ以上のものはないんじゃないのか。W杯後に引退する選手の気持ちが分かる」と呟いた男は、今もプレーを続けている。最高峰を経験し、まだサッカーを追求し続けているのだ。もし今選ばれれば、円熟のCBはここを集大成として、10年をはるかにしのぐパフォーマンスを見せるかもしれない。その期待感は十分すぎるほどある。

 Jリーグ史上に残るスーパーDFは、ザックジャパンにとって特効薬なのか、劇薬なのか。少なくともその強い刺激が、停滞しかかっているチームに何らかの変化をもたらすことだけは確実だ。10年からの名古屋の劇的な変貌ぶりを目の当たりにしてきた者として、それは確信できる。闘莉王は、本人が望むように、日本代表の力となれる選手である。

<了>

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著者プロフィール

1979年生まれ。雑誌社勤務ののち、2015年よりフリーランスに。以来、有料ウェブマガジン『赤鯱新報』はじめ、名古屋グランパスの取材と愛知を中心とした東海地方のサッカー取材をライフワークとする日々。

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