クルム伊達も評価、25歳青山修子の快進撃

内田暁

青山自身が分析する活躍の秘訣

小柄ながら、鋭い動きで相手の意表を突く青山(左) 【Getty Images】

 準々決勝のジュリア・ゴージェス(ドイツ)/バーバラ・ザラボバ・ストリコバ(チェコ)戦では、青山/シーパーズ組の勝負強さが発揮された。第1セットはタイブレークで2−6と剣が峰まで追い込まれるが、ここで踏ん張り巻き返す。4−6の場面では、相手がオーバーネットのミスを犯す幸運にも恵まれた。第1セットを競り勝ち、第2セットは取り返されるも、最終セットは最後、青山のサービスで勝利をもぎ取った。

 大型化が進む女子テニスにおいて、154センチの青山がダブルスで活躍できる秘訣(ひけつ)とは何か?
 青山本人の分析が興味深い。
 青山はコートに立つと、膝を深く曲げて腰をグッと落とし、前衛でも後衛時も、常に低い重心で動きまわる。
「ネット際で隠れるような動きをしているので、相手はそれが嫌なのでは……」
 まさか、本当に対戦相手が青山の姿を見失うとは思えないが、時に視界から消えるような動きをし、低い重心からボールに飛びつくプレーは、確かに相手にとって驚異だろう。小柄な自分の特性を知り、それを生かす術を模索してきた足跡が、今の彼女の土台にもなっている。クルム伊達公子もそんな青山を、「青山さんは、自分のやるべきこと、できることをしっかりやり遂げる選手。ツアーでもまれる中で、自分のスタイルを確立している」と高く評価した。

 加えるなら、人当たりが良く誠実な人柄も、連携が重要なダブルスにおいて欠かせない資質だ。実は、今大会のパートナーであるシーパーズとは、大会開幕直前に組むことが決まった急増ペア。それでも素早く意思を疎通し、試合では抜群の連携を見せてきた。青山がシーパーズについて「いつも冷静で、私がミスをしても怒らない」と言えば、シーパーズも「シュウコはプレーのレベルが安定しているし、とてもポジティブなので一緒にプレーしていて楽しい」とパートナーを称える。自分に適した相棒を見抜く選定眼も、青山がツアーで培ってきた武器かもしれない。

無念の全英敗退 変化したその表情

 「この舞台で戦っている姿は、私自身も含め誰も想像できなかったと思う」
 本人もそう言って目を丸くさせた青山の快進撃は、準決勝の敗戦で幕を閉じた。この日の対戦相手は、青山が個人的にもよく知るアジア(中国と台湾)のペア。「もっと色んな動きをしてくるかと思ったが、思ったよりもきっちりやってきた」と言うように、相手を知るからこそ多い情報にしばられて、これまでのような思い切りがプレーから薄れた感がある。
 「一方的にやられたわけではなく、チャンスもあった。準決勝で敗れた悔しさというより、今日は、もう少し自分ができたのではという思いがある」
 試合後の青山はそう言って、無念さを隠そうとしなかった。その姿に、わずか2日前には「自分が今、ベスト4にいるなんて信じられない」と口にした時の戸惑いの影はない。かつては緊張でこわばっていた表情も、今はひきしまった勝負師の顔になっている。

 欲を出さず、遠くを見過ぎることはなく、一歩いっぽ積み重ねる――それが青山修子の身上であり、それは今後も変わらないだろう。だが、最終的に目指すべき高みを視野の先にとらえたことで、彼女の意識は大きく変わりはじめている。

「今回ここまで勝ち進んで、優勝するというのはすごく価値があることなのだと思った。それを狙える位置にいるのであれば、グランドスラムの優勝も視野に入れていきたい」
 テニスの聖地での濃密な5試合を経て、勝利への渇望は間違いなく、154センチの小柄な身体に植え込まれた。

<了>

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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