福西崇史氏が解説するボランチの理想像=強豪国の舵取りに学ぶ世界での戦い方
ボランチの駆け引きが勝負を決める
イタリア戦での長谷部は、効果的に前の選手を追い越していく動きで日本にいいリズムを作り出した 【Getty Images】
3−4で逆転負けを喫してしまったものの、日本はイタリア戦で相手を圧倒するような攻撃的なサッカーを展開した。イタリアには“世界一のボランチ”とも称されるユベントスのアンドレア・ピルロがいる。日本がユーロ準優勝国を相手に堂々としたプレーを見せられたのは、「ピルロ対策」が機能した結果だった。
「日本はピルロに対して、FWの前田遼一やトップ下の本田が常に近い距離にいてボールを渡さないようにしていました。日本戦はコンディションが良くなかったのか、ピルロの運動量が少なかったことで日本としては守りやすくなったという面もありましたね」
一方、日本は遠藤保仁がボールにたくさん触りながらリズムを作って、長谷部誠が高い位置まで上がり、攻撃に厚みを加えた。ボランチ合戦で優位に立ったことが日本の善戦を生み出した。
「イタリア戦の日本のボランチは良かったと思います。特に長谷部。どんどん前の選手を追い越していった動きは効果的でした、攻撃的なサッカーをする以上は、ボランチはバランスをとるだけじゃなくて、ときにリスクを冒すことをしていかないといけません。それによって相手のブロックを壊す。強豪国が相手になれば、個の能力で勝てないことが多いのでなおさら必要性が高くなります」
現代サッカーにおいてボランチはチームの方向性を決める役割を担っている。それぐらい重要なポジションなのである。世界有数の強豪国のイタリアでさえも、日本戦のようにボランチが止められてしまうとチーム力が半減してしまう。そこに福西氏はボランチを見る面白さを説く。
「ボランチがうまく機能すればチームも良くなるし、うまく機能しなければチームも悪くなる。ボランチを中心に見ていくと、『なぜうまくいっているのか?』『なぜうまくいっていないのか?』が分かってきます」
ときにはシンプルなロングボールも必要
ドゥンガはあえてロングボールを使うこ とで中盤のスペースを空けていた 【ボランチ専門講座】
「日本が攻撃的なサッカーをするには、ボランチがいかに前を向いてボールを持てるかがポイント。ボランチが2列目の本田や香川にパスを出すところから日本の攻撃は始まります。ただ、現状では相手に前からプレッシャーを受けたとき、パスをつなぐことにこだわり過ぎて苦しくなっている場面が見られます」
福西氏は自分たちのサッカーをするには「割り切り」も必要だと言う。ボランチの位置でボールを失うと、失点に直結する可能性がある。プレッシャーが強いときは無理につながずに、シンプルにボールを蹴ったほうがいい。それは福西氏がジュビロ磐田時代にボランチとしてのプレーを教わった、元ブラジル代表キャプテンのドゥンガから学んだものでもある。
「相手がプレッシャーをかけてきたとき、ドゥンガはパスを全然つながずにDFラインの背後にボールを蹴っていたんです。『どうして蹴るんだろう』と思っていたら、意図的にやっていることに気づきました。ロングボールを蹴られると相手のDFラインは下がる。前線の選手もボールを奪えないから疲れてくる。そうすると相手のプレッシャーが弱まってボールを回せるようになるのです」
コンフェデ杯は3連敗に終わったが、あくまでも本番は来年のW杯である。コンフェデ杯と違って結果を出さなければいけない。福西氏はボランチに「いままで以上に試合全体の流れを読んでプレーしてほしい」と求めた。
「ピッチの中心にいるボランチは良くも悪くもチーム全体への影響力が大きい。ボランチは試合の時間帯や味方や敵の状況に応じてプレーを使い分ける必要があります。ボランチの選手が本当の意味で『舵取り』になれるか。そこがカギになるのではないでしょうか」
<了>
ボランチ専門講座
【ボランチ専門講座】
現役時代、ボランチとしてジュビロ磐田の黄金時代を支え、日本代表としても2002、06年のワールドカップに出場を果たした福西崇史氏がボランチの見方、これまで明かさなかったプロフェッショナルメソッドを語る。
サッカーをもっと深く見たいと思っている観戦者、ワンランク上を目指す現役プレーヤーに向けた1冊。
<目次>
第1章 ポジショニング
第2章 アプローチ
第3章 1対1の守り方
第4章 グループ
第5章 ビルドアップ
第6章 ターン技術
第7章 ゲームメイク
第8章 攻撃参加
第9章 ボランチの見方