第3のCB・栗原勇蔵に問われる本気度=いまこそ覚醒すべき未完の大器

元川悦子

前半は合格点を与えられる出来

メキシコ戦で失点し、GK川島(右)になぐさめられる栗原(中央)。先発に抜てきされたが、期待に応えることはできなかった 【Getty Images】

 6月19日のコンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)2013のイタリア戦(レシフェ)で、ワールドカップ(W杯)優勝4回を誇る大国に内容で勝りながら3−4の逆転負けを食らった日本代表。22日のメキシコ戦(ベロ・オリゾンテ)は消化試合となったが、アルベルト・ザッケローニ監督は母国との対戦で見えた方向性を維持し、1年後の本大会に希望を見いだすために、本気で勝ちに行くつもりだった。その重要なピースである吉田麻也が腹筋から股関節の故障を悪化させたことから、センターバック(CB)の一角に第3の男・栗原勇蔵を抜てきした。

 左太もも裏に違和感を訴え、11日の2014年W杯・ブラジル大会アジア最終予選・イラク戦(ドーハ)に出場するチャンスを棒に振った彼にとって、代表の公式戦で先発出場するのは12年6月のオーストラリア戦(ブリスベン)以来。多少なりとも緊張感はあっただろう。それでも入りは悪くなかった。ユース代表時代からともに世界で戦ってきたDF今野泰幸、GK川島永嗣との中央の連係はまずまず安定。前半はポジショニングやビルドアップのミスもほぼなく、35分には強引に前線へ飛び込んできた相手エースのハビエル・エルナンデスが今野をかわしてシュートを打とうとしたとき、カバーに入って確実にクリアするなど、読みの鋭さも出ていた。この5分後に左クロスからフリーになったアンドレス・グアルダードのシュートが右ポストをたたく大ピンチもあったが、何とかスコアレスで前半を終えた。

「ポストに当たった危ないシーンもあったけど、お互いスローペースでそんなに激しくなかったから、自分としてはわりとスムーズに入れた。やりながら『これは勝てるかもしれないな』とも思った」と本人も述懐するように、合格点を与えられる出来だった。

悔やまれる痛恨のミス

 だが、後半に入るや否や、日本の運動量がガクッと落ちた。豊田、埼玉に始まり、ドーハ、ブラジルと1カ月間、長距離移動と超過密日程を続けてきた主力選手の疲労はピークを超えていたのだろう。立ち上がりから押し込まれる時間帯が続く。そして迎えた54分、栗原が最も恐れていた失点が現実のものとなってしまう。

 メキシコの中盤からのフィードが左に開いたグアルダードに渡った。右サイドバックの酒井宏樹が寄せに行った瞬間、エルナンデスが前線のスペースにスッと動き始めた。すでに栗原は一歩外に寄って酒井宏のフォローに行く形になっていたため、細貝萌からマークを託された時に反応が遅れてしまう。

「俺の体の向きが外に行ってたんで、ニアだけ切ろうと思ったんだけど……。後から映像を見たら、中も佑都(長友)と今ちゃん(今野)しかいなくてズレてくることもできなかった。俺がもっと中から守れば良かったんだけど、萌から一瞬のマークの受け渡しの声がかかった時、すでにポジションを前に取り過ぎていた。俺はまずそこを反省しなきゃいけない。クロスも宏樹の足にも当たってすごくいいボールになったのもあるけど、やっぱりエルナンデスは隙を絶対に見逃さない。あのサイズで世界で戦っている選手はそういうところのレベルが高いなと思った」と本人は努めて冷静に自らのミスを振り返った。

 その後、気持ちを切り替え、再びメキシコに立ち向かった。ザッケローニ監督が内田篤人と吉田を送り込んで3−4−3にした時もセンターに入って不慣れなシステムを支えようと試みた。しかし、エルナンデスに右CKから2点目を失った時点でゲームがほぼ終わってしまった。香川真司も「後半ははっきり言ってみんなバラバラだった」と途方に暮れたように、攻守の意思統一が欠けていた。「間延びした時にずっと言っている個の差がどうしても出る。今回は守備の個にクローズアップすべき」と本田圭佑も指摘したが、確かに守備陣は1対1にさらされ、クロスを入れられるたびに危険な状況に陥った。

国内組DFの底上げが代表の浮沈を左右する

 最終的に岡崎慎司の一撃で一矢報いたものの、メキシコにも1−2で苦杯。3試合9失点という散々な数字だけが残った。「組織では大きく崩されていないけど、結局、局面でやられている。個のレベルアップは必須だと思います」と吉田も反省しきりだった。そんな傍らで、栗原は「自分はまず出場機会を増やすことが先決」とコメントした。

「ディフェンスはつねに完璧を求めていかないといけない。相手の攻撃陣が完璧な動きをした時も、完璧な守り方をしなきゃいけない。一歩寄せるとか、相手にくっついてなきゃいけないとか、そういうのを覚えるのもやっぱり場数だと思う。試合に出るのが少ない自分はどうしても周りに合わせることを優先してしまう。その状況を変えることからやらないといけない」と彼はあらためて強調した。

 日本人CBで海外でプレーしているのは吉田だけ。それ以外は皆、Jリーグで自力を養わなければいけない。日ごろからロビン・ファン・ペルシーやルイス・スアレスらと対峙(たいじ)できる吉田との差は少なからずあるが、「Jリーグにもいい選手はいっぱいいるし、できることは必ずある。代表でマンUの真司やインテルの佑都と一緒に練習してても全くできないとも思わないから」と栗原は自分に言い聞かせるようにこう語った。

 実際、横浜F・マリノスの先輩・中澤佑二もJリーグから10年W杯・南アフリカ大会へ挑み、ベスト16入りに貢献している。35歳になっても高いパフォーマンスを維持する男の一挙手一投足をつねに身近で見ている彼には、そのノウハウを学ぶチャンスはいくらでもあるはず。その環境を生かさない手はない。

 メキシコ戦で敗戦のきっかけを作ったことを忘れず、ここからの1年をどう過ごしていくのか。栗原、伊野波雅彦をはじめとする国内組DFの底上げが、ザックジャパンの浮沈を左右すると言っていい。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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