ファイナルMVP・レブロンの光と影=栄光極めたNBA最高選手の裏の顔
レブロン宅は“超”がつく高層マンション
NBAを連覇したヒートの大黒柱・レブロン。その成功が偉大すぎるが故に、彼の過去についてを知る機会は少ない 【Getty Images】
「右側に見えるのが、(NFLの)マイアミ・ドルフィンズのスタジアムだ。弱いから、誰も行かないけどね」
「あっ、事故だ。マイアミの人は、危ない運転をするから、運転しない方がいいよ」
「サウスビーチ内でどう移動するかって? タクシーに乗りな。せいぜい8ドル(約800円)だから」
その彼のテンションがいっそう上がったのは、バスがヒートのホームコート、アメリカン・エアラインズ・アリーナに近づいた時だ。
「ホラ、ここがアリーナだ。で、道路を渡った反対側に高いビルが見えるだろ? ここにレブロン・ジェームズが住んでいるんだ」
それは、“超”がつく高層マンション。
窓からは、ちょうどアリーナが見下ろすことができ、その先にあるビスケーン湾を一望できるに違いない。
ステータスシンボル。まさに、そんなコンドミニアムだった。
知られざるレブロンの極貧だった幼少生活
「俺は、レブロン・ジェームズだ。オハイオのアクロンからやってきた。俺は、本当は、ここにいるような人間じゃないんだ」
何が言いたかったのだろうか。
少なくとも、自らの出生を口にしたことで、多くの人がイメージしたのは、レブロンの極貧の幼少生活だ。家賃滞納で、追い出される度にアパートを転々とし、人々の生活を下から眺めて育った。
今とのギャップ――。あの超高層マンションと比べれば、まさに天と地を逆さまにしたような違いである。
一度、彼が生まれ育ったアクロンを訪ねたことがある。きれいな田舎町だが、影があった。レブロンがかつて住んだアパートの1つは、普通の人が決して訪れることのない谷底にあった。谷底には、橋が架かっている。そこからは、年に何人か飛び降りる人がいる、とのことだった。朝起きて、公園に飛び出していった子どもたちが、それを見つける、そういう環境で彼は育ったのだ。
別のアパートに向かうと、かつてアクロンに住み、街を案内してくれた友人は言った。
「ここでは車を止められない。座り込んでいる連中とも目を合わせるな」
そのアパート周辺の道路には、座り込んでいる人であふれていた。ギャングなのか、ホームレスなのか。考えているうちに、友人は車のスピードを上げて、その場を走り去った。