世界で勝つための日本サッカーを再考する=メキシコやスペインを模倣する必要はない

小澤一郎

誰かのまねをする必要はない

日本は他国の模倣をする必要はない。冷静に強みを分析し、世界で勝つためのサッカーを育てていけばいい 【Getty Images】

 小柄で敏しょう性に優れた身体的特徴を持つメキシコゆえに、日本では「体格面で似ているから」という理由でメキシコサッカー模倣論が唱えられる。しかし、異なる立場の二人の日本人はその理由に違和感を持つ。西村氏が「身長が同じくらいでも、メキシコの選手の方が大人の体格をしていて、U−15年代ですでに腰回りや胸板が大きく違う」と説明すると、選手として日常的にメキシコ人とプレーする佐藤も「下半身が強く、身体の使い方もうまいのでフィジカル面で似ているとは思わない」と口にする。両者によるとメキシコでは筋力トレーニングが重視され、大体U−15年代から入り込んでいるという。加えて、佐藤は「倒れない技術」を持つメキシコサッカーの特徴についてこう説明する。

「日本では身体を当てる前にパスではたいて、コンタクトを回避する習慣を身に付けていたのですが、メキシコの選手はパスを受ける前に身体、特にお尻をぶつけてプレーエリアを確保する習慣が身に付いています。その意味では、メキシコに来たことによって『うまさ』や『技術』の定義も少し変わった気がしますし、日本はメキシコの身体の使い方、倒れない技術を学ぶべきだと思います」

 冒頭に記した通り、グループリーグ敗退が決まったチーム同士の対戦ゆえに、今回の対戦を機に、あらためてメキシコの育成やサッカーに注目が集まることはないかもしれない。しかし、欧州にも南米にも属していないメキシコが世界で勝つために独自の育成システムとサッカーを構築し、五輪という舞台であっても、世界大会におけるタイトルを獲った事実は日本に勇気とアイデアを与えてくれる。海外で指導経験を積んでいるからこそ客観的かつ正確に日本サッカーの評価ができる西村氏は最後にこう述べた。

「別に誰かのまねをする必要はなくて、一人ひとりの運動量や、密集地帯でのコンビネーションからの崩し、ギャップでプレーできる技術といった日本人の特徴、強みを自ら出せるようにすればいい」

メキシコ戦は決して消化試合ではない

 ブラジル戦とイタリア戦での積極性(メンタル面)に起因する内容面の差と、イタリア戦で見せた日本らしいパスワークによる崩しと圧倒した時間帯を見れば、私はグループリーグ敗退が決まったとはいえ、今回のコンフェデ杯は少なくない収穫があったと見ている。中でも期待しているのは、メキシコやスペインといった身体的特徴が類似すると考える他国を引き合いに出して「●●のようなサッカーを目指すべき」という模倣論に終止符が打たれるのではないかということ。

 世界との差や壁を語り、世界の背中を追いかけたところで、結局のところ世界には追いつかない。本田圭佑や長友佑都といった選手から「W杯優勝」なる言葉、目標が出てくる背景には、彼らが日常的に肌感覚でそこを理解しているからだと考える。だからこそ、いま必要なことは他国、強国のいいところ取りをし、冷静に日本の強みを分析・認識した上で、軸を定めて「世界で勝つための日本サッカー」を育てていくこと。そうである以上、メキシコ戦は決して消化試合ではなく、1年後のW杯本大会でリベンジするためにも、イタリア戦同様に前向きなメンタルとプレーで、ゴールと勝ち点3を獲るべき重要な試合だ。

<了>

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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