失墜したサッカー王国ブラジルの権威=美しく勝とうとは考えていない日本戦

大野美夏

敵ではないという評価が下された日本

コンフェデ杯の初戦の相手は昨年の親善試合で4−0と快勝した日本。再び勝利し、チームに勢いをつけたいところだ 【写真:Newspix.pl/アフロ】

 日本が近年、急成長を遂げ、世界のサッカーシーンに台頭してきたことは紛れもない事実としてブラジルも認めている。しかし、ブラジルが“敵”として一目置く条件は伝統。第一にW杯優勝国かどうか、次にそれに順ずる成績を残しているか、だ。

 日本との対戦成績を見ると9試合負けなし。昨年10月のフレンドリーマッチでは、試合前の予想を大きく裏切って4−0の圧勝だった。あの試合の前は、ブラジル人もひょっとして日本相手に苦戦したらどうしようと不安気だったのも事実だ。しかし、蓋(ふた)を開けてみたらあっけなく勝利を収めた。確かに、日本はがちがちに守るだけでなく、積極的に点を取ろうと仕掛けてきたため、ブラジルにスペースを与えることになったが、結果としてやはり日本はブラジルの敵ではなかったという評価が下された。

 ネイマールは日本戦を振り返って「パスワークが良く、とてもまとまったチームだと思った。昨年の対戦はとても良いゲームだった。コンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)でも良い戦いになることを期待している。印象に残っている選手は、FWの本田圭佑。素晴らしいプレーヤーだ」と言う。

 中盤の遠藤保仁、長谷部誠、清武弘嗣、香川真司のパスワークと本田の得点力が日本のストロングポイントだろう。

 スコラーリはタフなディフェンスを好み、攻撃陣も相手のボールチェックを積極的にするが、日本戦は高いラインからボールを奪い合い、日本にスペースを与えないようにしてくるだろう。フランス戦でネイマールが戦術に沿って、守備の面でチームプレーに徹したことに監督は非常に満足していた。しかし、ブラジルのストロングポイントは、個の力であることは言うまでもなく、高いラインでボールを奪って速攻でゴールまで持ち込むのに、最後はやはり個人の力が決め手となる。日本は欧州相手に勝てる実力を持っている。ただ、ブラジル特有の予測のつかない即興プレーにどこまで対応できるか。

勝てばすべてが良い方向に傾く

 さて、コンフェデ杯開幕前の最後の強化マッチとなった6月9日のフランス戦の勝利は、セレソンと国民が大きな自信を取り戻すきっかけとなった。92年から勝てなかった、フランスに3−0で勝ったことで、新聞もこぞって『真の勝利!』『強い!』『魅了した!』『本当のサッカーが戻ってきた!』と合格点をセレソンに与え、最高に良いムードでコンフェデ杯へ突入することとなった。これまでのようなフレンドリーマッチのための3日だけでなく、2週間以上の合宿を通して、チームワークや連係プレーをさらに磨いていけば、一気に波に乗るだろう。

 とにかく、オープニングマッチの日本戦で、どんな形でもいいから勝つこと。これが第一歩だ。

 勝てば自国開催の強みとして、サポーターからの後押し、メディアの盛り上がりなど、すべてが良い方向に傾くだろう。美しく勝とうなんてフェリッポンは考えていないはずだ。

<了>

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著者プロフィール

ブラジル・サンパウロ在住。サッカー専門誌やスポーツ総合誌などで執筆、翻訳に携わり、スポーツ新聞の通信員も務める。ブラジルのサッカー情報を日本に届けるべく、精力的に取材活動を行っている。特に最近は選手育成に注目している。忘れられない思い出は、2002年W杯でのブラジル優勝の瞬間と1999年リベルタドーレス杯決勝戦、ゴール横でパルメイラスの優勝の瞬間に立ち会ったこと。著書に「彼らのルーツ、 ブラジル・アルゼンチンのサッカー選手の少年時代」(実業之日本社/藤坂ガルシア千鶴氏との共著)がある。

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