失墜したサッカー王国ブラジルの権威=美しく勝とうとは考えていない日本戦
22位のランキングがセレソンに及ぼす影響
強豪国になかなか勝てず、FIFAランキングも22位に沈んだブラジル(黄色)。王国復権へ何が必要なのか 【Getty Images】
22位という現実は、ブラジルが対戦相手にとって未知の怪物と対戦するような脅威ではなくなってしまったことも意味する。センターバック(CB)のチアゴ・シウバが「ヨーロッパの人は、ブラジルに対してのリスペクトが低い」と悔しそうに言うが、最後にブラジル代表がW杯で優勝した02年日韓大会から11年。若い世代にとってブラジルが優勝するイメージがかつてほどではなくなった今、ブラジル相手でもやれるという気持ちの変化が対戦国に起きているのではないか。それは日本も含めて。
オスカルもそれを感じていると言う。「スペインが10年の南アフリカW杯で優勝したこともあり、ヨーロッパの方がブラジルよりも上だと思われている」。チアゴ・シウバは「ブラジルはW杯を5回優勝している偉大な国なんだ。もっとリスペクトを持つべきだ」と不満をあらわにするが、そのためには強豪国相手に勝利する姿を見せなければならない。
王国復権へ、期待を寄せられるスコラーリ
唯一のビッグイベントだったコパ・アメリカ(南米選手権)のタイトルを取れなかったイメージもネガティブに働いた。しかも、強豪相手に勝てない。自国開催のW杯を戦うには、メネーゼスにカリスマやオーラがないことが、新たにCBF(ブラジルサッカー連盟)の会長に就任したジョゼ・マリンには物足りなく感じられた。監督としての技術が圧倒的に劣っていたわけではないし、メディアとの関係もドゥンガの時に比べたら良好だったが、セレソンのプレステージ(威信)を取り戻すのには、“フェリッポン(ビッグ・フェリッペ=ルイス・フェリペ・スコラーリ監督の愛称)”の強いイメージが必要だった。
スコラーリは、かねてからCBFの本命と言われ、02年W杯予選で低迷していたブラジルを建て直し、最終的にはW杯優勝に導いた統率力が今回も大きく期待されている。
さて、監督がスコラーリになって、戦術的に変わったのは前線が1トップになったことだ。システムは、4−2−3−1で、攻撃陣はヘディングも強いゴールゲッターのフレッジがゴール前に構え、セカンドアタッカーのフッキ、ネイマールと攻撃的MFのオスカルがポジションチェンジをしながら、相手陣内に切り込む。守備の時に、しっかりマークができるボランチもフェリッポンのトレードマークだ。サイドバック(SB)が攻撃参加するときには、ボランチがカバーして、後ろを固めることで、攻撃のバリエーションを増やす。
また、SBが攻撃参加でチャンスを作ることで、攻撃センスもあるボランチが相手陣内まで飛び出し、ゴールを狙う。6月2日のイングランド戦では(日本戦でもゴールした)パウリーニョ、フランス戦ではエルナネスがゴールしている。また、ダビド・ルイス、ジャン、エルナネスのように違うポジションも務まるポリバレントな選手の存在も重要だ。選手層の厚さは、ブラジルの強み。反対に足りないのは、走り回らず状況判断のできるゲームメーカーか。