失墜したサッカー王国ブラジルの権威=美しく勝とうとは考えていない日本戦

大野美夏

22位のランキングがセレソンに及ぼす影響

強豪国になかなか勝てず、FIFAランキングも22位に沈んだブラジル(黄色)。王国復権へ何が必要なのか 【Getty Images】

 2013年6月6日付けのFIFA(国際サッカー連盟)ランキングで22位。この順位がまさか自国のセレソン(ブラジル代表の愛称)のことだとは、ブラジル国民の誰もが思いもしないだろう。ブラジルの順位は2010年から下がる一方で、サッカー王国の名に恥じるであろう20位以下にまで落ちてしまった。ただ、このポイント制はブラジルにとって不利に働いているのだから仕方ない。FIFAが定める重要な試合ほどポイントが高く、ワールドカップ(W杯)開催国のブラジルは多くのポイントが入る予選を免除されているため、強豪国との対戦に勝利しない限り、ポイントは稼げない。そんな状況の中、6月9日のフランス戦でW杯優勝経験国に実に48試合ぶりの勝利を挙げるなど、強豪国に勝てていなかったのだから、不調であることは紛れもない事実だ。

 22位という現実は、ブラジルが対戦相手にとって未知の怪物と対戦するような脅威ではなくなってしまったことも意味する。センターバック(CB)のチアゴ・シウバが「ヨーロッパの人は、ブラジルに対してのリスペクトが低い」と悔しそうに言うが、最後にブラジル代表がW杯で優勝した02年日韓大会から11年。若い世代にとってブラジルが優勝するイメージがかつてほどではなくなった今、ブラジル相手でもやれるという気持ちの変化が対戦国に起きているのではないか。それは日本も含めて。

 オスカルもそれを感じていると言う。「スペインが10年の南アフリカW杯で優勝したこともあり、ヨーロッパの方がブラジルよりも上だと思われている」。チアゴ・シウバは「ブラジルはW杯を5回優勝している偉大な国なんだ。もっとリスペクトを持つべきだ」と不満をあらわにするが、そのためには強豪国相手に勝利する姿を見せなければならない。

王国復権へ、期待を寄せられるスコラーリ

 10年のW杯の敗退とともにドゥンガからマノ・メネーゼス監督に交代したブラジル代表。メネーゼスは、若くインテリジェンス溢れる監督で、新たなセレソンを作ってくれると期待されたのだが、セレソンの顔にはなれなかった。

 唯一のビッグイベントだったコパ・アメリカ(南米選手権)のタイトルを取れなかったイメージもネガティブに働いた。しかも、強豪相手に勝てない。自国開催のW杯を戦うには、メネーゼスにカリスマやオーラがないことが、新たにCBF(ブラジルサッカー連盟)の会長に就任したジョゼ・マリンには物足りなく感じられた。監督としての技術が圧倒的に劣っていたわけではないし、メディアとの関係もドゥンガの時に比べたら良好だったが、セレソンのプレステージ(威信)を取り戻すのには、“フェリッポン(ビッグ・フェリッペ=ルイス・フェリペ・スコラーリ監督の愛称)”の強いイメージが必要だった。

 スコラーリは、かねてからCBFの本命と言われ、02年W杯予選で低迷していたブラジルを建て直し、最終的にはW杯優勝に導いた統率力が今回も大きく期待されている。

 さて、監督がスコラーリになって、戦術的に変わったのは前線が1トップになったことだ。システムは、4−2−3−1で、攻撃陣はヘディングも強いゴールゲッターのフレッジがゴール前に構え、セカンドアタッカーのフッキ、ネイマールと攻撃的MFのオスカルがポジションチェンジをしながら、相手陣内に切り込む。守備の時に、しっかりマークができるボランチもフェリッポンのトレードマークだ。サイドバック(SB)が攻撃参加するときには、ボランチがカバーして、後ろを固めることで、攻撃のバリエーションを増やす。

 また、SBが攻撃参加でチャンスを作ることで、攻撃センスもあるボランチが相手陣内まで飛び出し、ゴールを狙う。6月2日のイングランド戦では(日本戦でもゴールした)パウリーニョ、フランス戦ではエルナネスがゴールしている。また、ダビド・ルイス、ジャン、エルナネスのように違うポジションも務まるポリバレントな選手の存在も重要だ。選手層の厚さは、ブラジルの強み。反対に足りないのは、走り回らず状況判断のできるゲームメーカーか。

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著者プロフィール

ブラジル・サンパウロ在住。サッカー専門誌やスポーツ総合誌などで執筆、翻訳に携わり、スポーツ新聞の通信員も務める。ブラジルのサッカー情報を日本に届けるべく、精力的に取材活動を行っている。特に最近は選手育成に注目している。忘れられない思い出は、2002年W杯でのブラジル優勝の瞬間と1999年リベルタドーレス杯決勝戦、ゴール横でパルメイラスの優勝の瞬間に立ち会ったこと。著書に「彼らのルーツ、 ブラジル・アルゼンチンのサッカー選手の少年時代」(実業之日本社/藤坂ガルシア千鶴氏との共著)がある。

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