元ロッテ・小林亮寛が野球を続ける訳=「戦力外=引退」を否定してきた男の夢
「野球があるところにはチャンスがある」
韓国プロ野球入りを目指す小林。現在は抑えを任され、監督からの信頼も厚い 【ストライク・ゾーン】
ある日、小林とルームメートのキューバ人選手がクビを言い渡された。
「彼は昼に球場で支給されるハンバーガーを食べ、夜はクッキーだけで空腹を満たしていました。800ドルの報酬のうち、700ドルをキューバの家族に仕送りするためです」
そんな彼にとってクビは死活問題。小林は彼を励まそうとすると、こんな言葉が帰ってきた。
「笑いながら“This is baseball. Don't worry コビー(小林の愛称)”と言われました。それを聞いて、ものすごく恥ずかしかったです。こっちは腹が減ったらタクシーに乗ってチャイニーズを食べに行き、トレーニング用品がない、トレーナーがいないと不満ばかり漏らしていました。しかしそうじゃないと。彼は置かれた状況で必死でした。それなのにクビという事実が重くないんです。どこであれ、野球があるところにはチャンスがあると信じていました」
その日以来、小林はヴァイパーズで必死に投げた。1年間で38人の選手が入れ替わる中、小林ともう1人のカナダ人選手だけが、フルシーズンこのチームでプレーした。
「チームに必要とされることに飢えていたので、肘が痛くなっても投げ続けました。試合に投げられることで感じたのは、“経験して成長していく喜び”です」
河埜や広橋が所属する球団でKBO入り目指す
「台湾シリーズには両親を呼びました。親にプロ野球選手としてたくさんの観衆の中で投げる姿を見せられたのは、その時が初めてです」
小林はその後、10〜11年とメキシコでプレーし、昨年から韓国の高陽ワンダーズに所属している。このチームは大卒後のアマチュア野球組織が確立していない韓国で、プロを目指す若者の受け皿として誕生した球団だ。2軍リーグに非公式ながら48試合参加し、この2年間で韓国のプロ球団に11人の選手を供給している。
若者に機会を与えるチーム理念と、小林のような外国人選手は相反するように思えるが、このチームを率いる金星根(キム・ソングン=70)監督は外国人選手の必要性をこう説明する。「他のチームと対等に戦える戦力を整えないと、選手のレベルは上がらない」。高陽には小林のほかに、ディオーニ・ソリアーノ(元広島)、ルイス・ゴンザレス(元横浜)の2人の助っ人投手が在籍している。またコーチ陣には河埜敬幸(元南海)、広橋公寿(元西武ほか)、田中実(元日本ハム)、沖泰司(元日本ハム)、サムソン・リー(元中日)といったNPBでのプレー経験がある面々が名を連ね、その陣容はプロリーグのチームと遜色ない。ちなみに金星根監督も、日本出身で千葉ロッテのコーチ経験があり、SKワイバーンズの監督時代にはアジアシリーズで決勝に進出している。
「このチームはKBO(韓国プロ野球)に近いところでアピールできるという貴重な存在です。これまでさまざまな縁がつながって、いろんな国でプレーしてきました。その都度、明確な目標を立ててきましたが、今、僕が目指すのはKBOのチームでプレーすることです」
人を感動させることができるのが「プロ野球選手」
“流浪のベースボールアーティスト”小林はこれからも「プロ野球選手」と世界のどこかで投げ続ける 【ストライク・ゾーン】
「僕の特徴はシュートを中心にいろんな球種を生かして、打たせて取るピッチングをするところです。本来は先発としてゲームメークするタイプですが、今は監督が僕を抑えとして信じ、評価してくれているので感謝しています。各球団のスカウトは外国人ということで球が速いことが獲得の条件になるでしょうが、ゲームをつくれるというところを見てもらいたいですね」
韓国プロ野球の外国人選手契約期限は8月15日。1球団あたり3人まで契約、2人まで出場という狭き外国人枠に入ることを小林は目指している。小林の現状について金星根監督はこう話す。「コントロールも変化球も良くなってきた。今、抑えをやっている他のチームの外国人よりも、小林の方がええんちゃうか」
6つの国と地域、7つの球団でプレーしてきた小林。彼にとって「プロ野球選手」とは何か。
「日本では“スポットライトを浴びないとプロ野球ではない”という見方がほとんどですが、世界にはさまざまな文化の中にプロ野球があると僕は実感してきました。大事なのは肩書きではなくて、自分のスキルを上げて人を感動させることです。リーグの大きさに関係なく、それをできるのがプロ野球選手だと思います」
「クビ、イコール引退」という概念が世界のスタンダードではないと実感してきた小林。「流浪のベースボールアーティスト」は、これからも世界のどこかで「プロ野球選手」として生き続けるだろう。
<了>