朝原氏らが解説 桐生と山縣、勝負を分けたのは!?=日本選手権・男子100m総括

構成:スポーツナビ

経験を積めば、自ずと記録は出る(折山淑美/スポーツライター)

山縣(写真右)の強さが光った今大会。桐生(同中央)は連戦による疲労の影響も?左は3位の高瀬 【野口卓也】

 決勝のレースは、山縣が冷静で、スタートからスッと前に出て、自分の力をそのまま生かすレースができていました。桐生の方は硬さがある感じで、うまく持ち味の加速が乗らなかったですね。大きな舞台になればなるほど、走りを邪魔する余分な要素が増えてくる中で、やはり集中力という部分で、一日の長が山縣にあったということ。また、17歳の桐生がメンタルの準備をできなかったことが、10秒25という結果になったのだと思います。

 9秒台が出なかったことについては、味の素スタジアムのトラックも記録が出ないトラックではないようですが、織田記念国際の会場ほど記録が出やすいわけではなかったということでしょう。風も追い風0.7メートルでしたので、10秒11は妥当だと思います。それに、このスタジアムは風が回っていて一定ではありませんでした。多分、決勝のスタートの時は追い風でも、途中で風向きが変わっていたかもしれません。

 今後、このままやっていけば2人の記録は伸びると思います。風のコンディションやグラウンドの状態によっては、パッと9秒台が出てもおかしくはありません。
 2人に関して言うと、日本選手権のスタジアムで山縣が10秒11、桐生が10秒25、さらに桐生は(昨年10月の)ぎふ清流国体で10秒21、(11月の)エコパトラックゲームズで10秒19でした。山縣もロンドン五輪で10秒07と、複数のグラウンドで良いタイムを出しています。今後、いろんなレースで経験を積んでいけば、自然と良い記録は出てくると思います。

 世界選手権では、準決勝進出はもちろん狙うところだけど、決勝進出となると、ほとんどの選手が9秒台で、9秒90後半の選手でもなかなか難しいはず。ただ、2人には準決勝の舞台で自己ベストに近いものを出してほしい。そこで最高の走りをして、世界に勝負を挑んでほしいと思います。

9秒台へ新要素、切磋琢磨で可能性は増す(加藤康博/スポーツライター)

 今日のレースを一言で表すと、山縣が強かった。予選からA標準をそろえてきた強さを見ても、それが際立っていましたね。
 今日の勝敗を分けたポイントはスタートだったと思います。桐生は、山縣が抜群のスタートを切ったことで、前を追う展開になりました。山縣に先を行かれて硬くなったように思います。また、初の日本選手権で独特の緊張感の中、普段との勝手の違いがスタートの出遅れにつながったようにも思います。

 一方、山縣は昨年、ロンドン五輪に出場、もちろん日本選手権も経験しているので、「経験勝ち」といったところだと思います。ただ、初出場の高校生が10秒25の記録で2位というのはすごいこと。褒められるべきことだと思います。

 9秒台に関しては、今回出ませんでしたが、山縣も桐生も非常に近い位置にいるのは間違いありません。近いうちに、「体・精神・コンディション」がそろった時に9秒台は出ると思います。
 あと、今回の大会で思ったのですが、4つ目の要素が増えたと思います。それは「桐生と山縣が切磋琢磨していること」です。桐生は山縣を目標にしていますし、山縣はアニキ肌というか、桐生の面倒を見ていてコミュニケーションも積極的にとっています。2人が勝負と情報交換を続けていき、うまく回転していければ可能性は増すでしょう。

 また、山縣が「9秒台は意識していたら出ないものと分かった」と言っていましたが、記録達成には開き直りも必要です。山縣は先日まで「桐生よりも先に9秒台を出す」と言っていましたが、今回がふっ切りのきっかけになったのではないでしょうか。

 桐生は連戦での疲れもあると思いますが、この中で強くなっていっているはずです。また、本人も「まずはもう一度10秒01を出した後で9秒台」と言っています。10秒01をもう一度出すことで、自分のベストに関する“再現力”が増していくはず。まずは“再現力”を磨いてほしいと思いますし、その先に9秒台があると思います。
 ただ、桐生は進化の真っ最中で勢いもあります。この勢いのまま突発的に9秒台が出るということも十分に期待できます。なので、今シーズン中の9秒台はありえると思います。

<了>

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