朝原氏ら3人が予想!夢の9秒台突入の可能性は?=陸上・日本選手権、男子100m展望

構成:スポーツナビ

桐生の9秒台、今大会は難しい(折山淑美/スポーツライター)

4月の織田記念国際で10秒01をたたき出した桐生。複数の要素がかみ合えば、日本選手権での9秒台も十分期待できそうだ 【写真は共同】

 桐生は、2日の京都府インターハイ予選の疲れが多少あると思いますが、全然問題ないでしょう。2月に行われた陸連合宿でも、江里口らがへたばっているところを元気に走っていたぐらいなので、高校生らしいタフさを持っています。
 彼の走りはスタート勝負というより、スムーズに飛びだして中盤から大きなストライドで加速することを意識しているので、大きな崩れがない。そこは山縣と似たタイプですね。昔はスタートが苦手でしたが、最近は中盤以降の加速がついて、スタートに余裕を持てるようになったことが最近の記録更新につながっているのだと思います。

 桐生に9秒台を期待する声もありますが、今大会で出すのは難しいかも知れませんね。100メートルは競技場のトラックや風の状態が良くないと厳しいですし、特に今回の味の素スタジアムは、陸上の大きな大会であまり利用されておらず、風やトラックの状態がどうなのかが分かりません。もし9秒台が出るとすれば、決勝よりも予選の時に状態良く走れた場合の方が可能性はあるかもしれません。

 また、勝負ということで考えると、山縣の方が経験は上でしょうし、4連覇中の江里口も勝算はあります。特に10秒10台の戦いとなってくると、江里口に分があるかも知れません。

 ほかにも、北京五輪400メートルリレーで銅メダル獲得の塚原直貴(富士通)の状態がどれぐらい戻ってきているかは気になるところです。まだまだ老けこむ年齢でもないので、代表選考に入ってきてほしい。さらに、唯一200メートルにもエントリーしている高瀬慧(富士通)にも期待したいです。100メートルで良い記録が出れば、200メートルのレースにもつながると思うので注目です。

桐生にはどの選手の常識も当てはまらない(加藤康博/スポーツライター)

 9秒台が出るとすれば、その筆頭は間違いなく桐生だと思います。桐生はこれまでのどの偉大な選手たちと比べても、規格外のスピードで成長をしています。桐生のポテンシャル、ここまで急激にタイムを縮めてきた勢いを考えると、一気に9秒台を出す可能性も捨てきれません。常識的に考えて簡単に出るとは思えませんが、桐生の勢いはこれまでのどの選手の常識も当てはまりません。100メートル決勝の舞台で電光掲示板に「9秒」の文字が出ている光景が目に浮かぶので、非常に楽しみです。

 実際に桐生が記録を出すかですが、9秒台は体の状態、精神の状態、そして外的コンディションがかみ合わないと出ない記録です。
 桐生の体の状態としては、5月のゴールデングランプリから隔週で試合に出続けているので、疲労の面で不安があります。ただ、常識が通用しない選手であることは前述の通りなので、心配にとどまってくれれば良いと思っています。
 次に精神面です。伊東浩司さん(100メートル日本記録保持者)をはじめ、これまでに9秒台を目指した選手に聞くと「10秒の壁」という話が必ず出てきます。しかし、桐生はゴールデングランプリで今季の目標を「9秒96」と言ってしまうあたり、「10秒の壁」を“壁”と思っていないのではないかと感じます。これは精神的に大きなプラス材料だと思います。
 外的コンディションで言うと、味の素スタジアムは、シニアのトップレベルの大会は今回が初開催で、とにかく情報がありません。吉と出るか、凶と出るか、分からないと言っていいと思います。

 桐生以外でも山縣、江里口は楽しみです。山縣は今季、非常に充実していますし、状態も良いです。また、本人も「桐生くんより先に9秒台を出したい」と発言するなど“壁”を感じておらず、9秒台に意欲的な面を見せており、心理面もクリアしています。十分可能性はあるでしょう。
 江里口は大会4連覇中です。織田記念国際、ゴールデングランプリと桐生に敗れてはいますが、差を詰めてきています。ここ一番の強さも持っているので、力通りに発揮してくれれば良いと思います。
 男子100メートルはこの3人が中心になるレースになると思います。

<了>

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