27歳・田沢純一“未完の豪腕”が完成するとき
ジョン・スモルツ以来最高のスプリッター
雌伏を経て“未完の大器”田沢純一に完成のときがやってきた 【写真は共同】
若き日の筆者もその1人で、美しいボールパークが舞台のダイナミックなベースボールは随分と魅力的に映ったもの。個性的なフォームから160km近い豪速球を投げ、大ホームランをかっ飛ばすパワフルな選手たちを、憧憬の眼差しで眺めたものだった。
時は流れ、現在――。当たり前のようにアメリカで活躍するようになった日本人選手たちの中に、かつて感じたメジャーの醍醐味を筆者に少なからず思い出させてくれる選手がいる。レッドソックスの田沢純一である。
最速97マイルの速球と切れ味鋭いスプリッターを武器に、真っ向勝負で打者をねじ伏せる豪快さが田沢の持ち味。昨季は37戦で44イニングを投げ、45奪三振、防御率1.43という見事な成績を残した。奪三振と与四球の比率では、40イニング以上投げたメジャー全投手の中でトップだったことも特筆されて良い。
今季もここまで26試合で4勝2敗、2.49とまずは順調。4被本塁打は残念だが、25回1/3で33三振と奪三振率は抜群に高く、好調時にはほぼ完璧な内容で魅せてくれる。故障者続出の際には一時はクローザーを任されたことからも、チーム内での期待の大きさは伝わって来る。
「田沢の球の威力はレッドソックスのブルペンの中でベスト。春季キャンプ開始直後、ブルペンで田沢を初めて捕球したロス捕手が、スプリッターは彼が受けた中ではジョン・スモルツ以来最高だと言っていた」
ボストンのラジオ番組に出演した際、ESPN.comの有名記者、バスター・オルニーがそんな逸話を披露して話題を呼んだこともあった。通算213勝、154セーブを挙げた大投手の名前が引き合いに出されたことからも、田沢のポテンシャルの高さが伝わってくる。
右ひじ手術、メジャーとマイナーの往復……厳しい日々
まずは日本プロ野球を飛び越える形での渡米で物議を醸し、さらに10年4月にはトミー・ジョン手術を受けて長期離脱を余儀なくされた。その後に1年5カ月に渡って登板できなかったことは、投げたい盛りの20代前半の投手にとっては大きな試練だったはず。11年9月に復帰以降も、メジャーとマイナーを往復し、役割がなかなか定まらない時期が続いた。
しかし、そんな厳しい日々も、田沢は今では明るい表情で振り返る。
「学んだのは、常に準備をしっかりしなければいけないということ。特に去年の最初はどんな場面で声がかかるか分からなかったからこそ、いつでもいけるように整えておかなければならなかった。今年はだいたい勝っている試合か、あるいは1、2点負けているような接戦で登板することが多いけど、しっかりとした準備が必要なことに変わりはありません」
本来なら伸び盛りの時期に雌伏の時間を経験しただけに、様々な意味で得るものも多かったのだろうか。同時に、身体も大きくなり、今ではアメリカの選手たちに負けない逞しい上半身になった。そして、「球速にはこだわってるわけではないですけど、(手術前より)速くなったかもしれませんね」とこともなげに述べる通り、持ち前の快速球は一段と威力を増したように思える。