佐藤嘉洋「自演乙が焼き肉なら僕はスルメ」=6.16ホーストカップで日本人頂上対決

中村拓己

「自演乙とは戦いの哲学が間逆」

本人は満足はしていないものの、3連敗のあと2連勝と調子を上げている 【中村拓己】

――そこで次の対戦相手が2010年K−1MAX日本王者・長島選手になりました。

 彼もプロレスをやったり、総合に挑戦するという話もあったので、自分とはもう縁がないのかなと思っていました。でもここで乙とやればK−1 MAXの歴代日本王者をコンプリートすることになるんですよ。コヒ(小比類巻貴之)さんとはリングで拳を交えてはいませんが、試合を組まれたこともあるし、同じトーナメントに出場したこともあるので。そういう部分で乙と戦うのもありかなと思います。

――ファイトスタイルしかり、常に周りから注目されて試合をするところしかり、佐藤選手と長島選手は対照的なファイターだと感じます。

 戦いの哲学自体も間逆ですよね。乙はお客さんを喜ばせる、どちらかと言えば須藤元気のようなスタイル。逆に自分はK−1全盛の格闘技界から見たら、万人には受け入れられないマイノリティな思想の持ち主かなと思います。

――佐藤選手はプロのファイターでありながら、自分がマイノリティだということは割り切れているのですか?

 最近ですね。僕もテレビ局の人たちから「スーパースターになって欲しい」と言われていて、やっぱりそういう立場の人たちはスーパースターを求めていたと思うんです。でも最近は「俺はスーパースターにはなれない」と割り切っています。僕自身、それは悪いことだとは思っていなくて、例えば…焼肉と寿司がスーパースターだとしましょう。乙が焼肉になれる選手なら、僕はスルメなんですよ。スルメを焼いても焼肉にはならないし、酢飯と一緒に握っても寿司にはならない。でもスルメはスルメとして美味しい食べ方があって味がある。だったら僕は焼肉や寿司はならずに、スルメの中のスルメになりたい。そういうことに気づきました(笑)。焼肉や寿司になれるやつはそれになればいいし、そうじゃないやつは無理しなくてもいい。自分のキャラを生かして適材適所でやるのが一番だと思います。

「今年は海外でしっかり結果を残したい」

今年は「海外でしっかり結果を残したい」と抱負を語る 【中村拓己】

――今年はキックボクシング界が盛り上がっていますよね。Krushは常に会場は超満員で前売りチケットも完売、RISEやSBはTDCホールや両国国技館など大会場で定期的にイベントを開催しています。また海外イベントですが、GLORYが有明コロシアムで大会を開催しました。佐藤選手はこの盛り上がりをどう感じていますか?

 流れもあると思うんですけど…Krushは本当にすごいなと思いますね。あんなにチケットが売れる様子を直に見たのは初めてかもしれないです。僕が出た1月の後楽園大会も超満員だったんですけど、大会の直前でもチケットそのものは手に入ったんですよ。でも3月大会は大会前にチケットが完売して、4月は大会の1カ月前にチケットが売れ切れるという。チケットが完売になるイベントは見てきましたが、こんなに早く売り切れるイベントは、ちょっと自分の記憶にはないですね。

――佐藤選手が観客の目線で見て、期待している若手選手はいますか?

 数年前から久保(優太)と野杁(正明)は世界で通用する選手だと言い続けていて、先日のGLORY世界トーナメントの決勝で2人が戦ったことで、証明されたかなと思います。だからあの2人は僕が何かを言わなくてもいいのかな、と。それで言うと秋元(皓貴。現WBCムエタイ日本王者で、デビューから無傷の19連勝)ですね。格闘技関係者は誰もが彼の実力を認めているし、あとはどうやってもっと多くの人に知ってもらえるか。今はまだ大きな注目を集めていないかもしれないけど、その時期に強豪選手たちと戦って地力をつけておけば、いざそういうチャンスが来た時にバーン!とブレイクすると思います。

――佐藤選手がまだ対戦していない日本人トップ選手という部分でも、長島選手との試合は注目の一戦です。その長島戦の先、佐藤選手はどんなことを目標に掲げていますか?

 今年は海外で1試合もしていないので、また海外に挑戦したいです。2010年以降、海外では結果を出せず、日本での試合に限られているので、海外でしっかり結果を残したいです。そこも含めて、次の乙戦は自分の中で3連勝できるか否かの重要な試合ですよね。ここで勝てば僕はもう一度、世界と戦えると思う。だから大事な試合であることは間違いないです。「佐藤嘉洋は果たして世界と戦う力を取り戻したのかどうか」。そんなテーマの試合です。試合直前になれば怖さも出てきますが、今はどんな試合になるのか楽しみにしています。

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著者プロフィール

福岡県久留米市出身。プロレスファンから格闘技ファンを経て2003年に格闘技WEBマガジンの編集部入りし、2012年からフリーライターに。スポーツナビではその年の青木真也vs.エディ・アルバレスから執筆。格闘技を中心に活動し、専門誌の執筆、技術本の制作、テレビ解説も務める。

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