クルム伊達、全仏完敗も笑顔の理由=結婚で心境に変化も、変わらぬ勝負師の姿
照準は芝のウィンブルドン
そしてもちろん、クレーを犠牲にしてまで体調管理を優先させたのは、赤土の季節の先に、クルム伊達が最も好きな芝のウィンブルドンが待っているからだ。
敗れて笑顔を見せるのは、クルム伊達が、20代の頃のように是が非でも勝ちを求める勝負師ではなくなったからなのか? そのような部分まで、彼女は変わったのだろうか?
いや、そうではないだろう。これはむしろ、肉を切らせ骨を断つこともいとわぬクルム伊達の勝負師の資質が、クレーを捨てて芝のコートを選ぶという、大局的でより大胆な形で発揮されたと見るべきだ。
人には変えられる要素と、変えられぬ本質がある。彼女は“伊達公子”から“クルム伊達公子”になる過程で、変えられるものは勇気をもって変え、変えられないものは冷静さと知性をもって受け入れてきた。今年の彼女は、「クレーでは自分に期待しないようにした」と言い、その上で「照準は当然、ウィンブルドン」と目に光を宿す。
欧州の赤土に植えた我慢の種は、6月のウィンブルドンの青芝で芽吹き、鮮やかな花を咲かせるはずだ。
<了>