名古屋が低迷の末に陥った悪循環=中断期間中に求められる攻撃の整備

今井雄一朗

守備の歪みを生んでいる規律の壁

連敗が続く名古屋では不穏な空気が漂う。誤算からくる悪循環で深みにはまっている印象だ 【Getty Images】

 誤算から生じる悪循環――。

 現在の名古屋グランパスを苦しめているものを要約するとそういうことになる。2010、11年と圧倒的な強さを見せつけてきたチームは昨年、7位という最終順位以上に内容面で苦戦を強いられた。
 だが、巻き返しを誓って臨んだ今季は、その昨季以上の低迷ぶりでサポーターをいらだたせている。第12節終了時点で、リーグ戦では09年以来の4連敗中で、ナビスコカップを合わせれば公式戦で5連敗中だ。憎たらしいまでの強さを誇った“強豪”名古屋に何が起こっているのか。

 まずは5月の連敗の要因だが、顕著なのはカウンターに対する守備の脆(もろ)さだ。試合内容は悪くなく、押し込んだ時間帯で得点を挙げられずにカウンターで失点する。
「これじゃあ怖くてセットプレーでも上がれないよ」と嘆いたのは田中マルクス闘莉王だ。その現象の根源には、独特の守備とその規律順守の姿勢がある。名古屋の厳格なゾーンディフェンスの基本は“ディフェンスラインの裏でやられない”というもの。カウンターを受けた名古屋のディフェンスラインが、相手のドリブルに対してズルズルと後退していくシーンをよく見かけるが、これはボールにアタックして裏を取られるよりは、一番シュートの決定率が上がる裏のスペースを最優先につぶすため。たとえフリーでミドルシュートを打たれようとも、確率的にはその方が失点は少ないからだ。

 しかし、地域を守るため、飛び込んでくる選手への対応には死角が多く、それゆえ精巧なカウンターに対して後手に回ることも多い。ここ最近の失点はまさにその形で、「最初につぶせれば問題ないんだけど」(楢崎正剛)、「1回プレーを切ればいいんだよ」(闘莉王)と、経験豊富な選手にしてみれば臨機応変さを求めたいところなのだろうが、規律の壁が選手たちの決断を鈍らせる。

「私は技術のミスは許すが、戦術のミスは許さない」。ドラガン・ストイコビッチ監督が常々語るポリシーである。サッカーがミスのスポーツである以上、ストイコビッチ監督は技術的なミスは(その都度怒りはするが)ある程度許容する。
 しかし、戦術を守らない選手、または戦術面でうまくプレーできない選手には相応の罰を与える。ストイコビッチ監督の判断基準は非常にシビアだ。

 今季も久々に新人で開幕スタメンを飾った牟田雄祐や、一時は主力にまで上り詰めた本多勇喜も試合中のミスから出場機会を失い、ホームのサンフレッチェ広島戦でループシュートを外したエース・玉田圭司に対しても“懲罰”のような起用が見られた。名古屋の選手たちが厳しい規律を守りたい心情は察して余りある。カウンターの最初をつぶしに行ってかわされるよりは、決まりごとにのっとった守備を、と考えるのは自然なことで、“規律違反”への恐怖を感じずにはいられない。

システムの失敗の誤算とそこからくる悪循環

 しかしながら、上記のことは何も今季始まったことではなく、低迷の直接の原因ではない。元凶は、最初に述べた誤算から生じた悪循環にある。誤算は3バックシステムの失敗だ。
 昨季までの基本布陣を保険とし、ストイコビッチ監督が今季目指したのは3バックによる魅力的な攻撃の実現だった。なぜ3バックかといえば、闘莉王、増川隆洋、ダニエル、そして牟田というレギュラークラスのセンターバックが4人そろったことで、闘莉王のオーバーラップを促進する3バックに実践のメドが立ったことが第一の理由。
 そしてケネディの下に玉田、藤本淳吾というクリエイティブな左利きMFを並べる攻撃ユニットに指揮官が「理想」を見いだしたからだった。

 だが、この構想はケネディがJリーグ開幕戦に間に合わなかったことで頓挫。プレシーズンを通じて練習を続けてきたシステムは、代役の矢野貴章が1トップで機能せず、牟田が不安定なプレーを見せたことから45分で4バックへ変更された。
 以降は「やっていけば良くなると思うし、やっていかなければいけない。せっかくキャンプでもこのシステムでやって、まだ時間も短いから何とも言えない」(玉田)という選手たちの声もむなしく、3バックはオプションに格下げ。開幕後から4バックの調整を始めたチームの骨格は、中断を前にようやく定まってきたところだ。

 誤算が呼んだ序盤の低迷は、さらなる悪循環を生んだ。今季はアジアチャンピオンズリーグ(ACL)の出場権を逃したが、これが再生の第一歩になるのでは、という見方もあった。ストイコビッチ監督は08年と10年にナビスコカップの予選リーグ(09、11、12年はACL出場のため決勝トーナメントから参加)を戦っているが、その2シーズンともにこの大会で大胆なローテーションを敢行している。
 これは主力の温存以上に若手や控え選手が経験を積む、モチベーションアップの場としても大きく機能。ベテランが多く、若手の突き上げが乏しいと言われていた現チームにとっては歓迎すべき状況だったが、再生が優先事項となったため、ローテーションは最小限にとどめられた。

 その中で田中輝希や本多という若手の台頭があったのは数少ない朗報だったが、前者はケネディの復帰でベンチ要員に戻り、後者は前述の理由で主力の扱いから外れている。チームメートの誰もが才能を認め、今季の成長を喜んでいた田中輝は3年目にしてA契約に到達。「玉田さん、(藤本)淳吾さんがいた方がプレーしやすいけど、自分がそういう存在にならないと」と自信をつけ始めていたところだった。
 
 本多にしても吉田麻也、磯村亮太に続く生え抜きの主力と期待され、4月には早くもA契約を締結。「ちょっと早すぎです(笑)。やっとスタートラインに立てました」と希望をふくらませていた段階だっただけに、彼らの“降格”は関係者の落胆を誘った。主力の壁に阻まれ、若手が出場機会を得られないのはプロの常。だが、その一方で主力への絶対的な信頼が、若手の成長に蓋(ふた)をしてしまうような状況は好ましくはない。

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著者プロフィール

1979年生まれ。雑誌社勤務ののち、2015年よりフリーランスに。以来、有料ウェブマガジン『赤鯱新報』はじめ、名古屋グランパスの取材と愛知を中心とした東海地方のサッカー取材をライフワークとする日々。

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