名古屋が低迷の末に陥った悪循環=中断期間中に求められる攻撃の整備

今井雄一朗

監督の頑固なまでの主力選手への信頼

頑固なまでに主力選手への信頼を示すストイコビッチ監督。選手も監督の起用に応えようと必死なのだが…… 【Getty Images】

 ストイコビッチ監督の主力への信頼感はトレーニングにも表れる。昨今、つとに有名になってしまった「Jリーグ一少ない練習量」だが、これは主力に30代のベテランが多いチームならではのもの。ストイコビッチ監督は基本的にシーズン中はコンディショニング的要素の練習しかしない。
 しかもケガをするからという理由で居残り練習は禁止だ。トレーニングの展開はほぼルーティン化しており、土曜日に試合があった場合、日曜日はリカバリートレーニング、月曜日はオフ。火曜日と水曜日で負荷をかけ、木曜日は負荷を落とし、金曜日は体を動かす程度にとどめる。この流れは「本当に試合には疲れを残さず臨める」(矢野)。「試合をしているとちょうどいい」(田口)と主力には好評だが、反面、試合に出ていなければ物足りなく、今季は若手のみの2部練習なども実施されるようになったほどだ。

 昨季まで在籍していた永井謙佑(スタンダール・リエージュ/ベルギー)は言っていた。「練習が少ない分、試合で追い込んでいます」と。若手も総じて「すごく頭を使うので疲れますが、ゲーム形式の練習がしたいです。プロの対人プレーのスピードや当たりの強さを感じたい」と、練習の負荷については物足りない様子。移籍していった選手たちの声も、関係者からよく耳にする。いわく、「練習がキツイ。最初はついていくだけで精いっぱいです」。主力以外の選手たちは決して口にはしないが、悩める日々を送っているはずだ。

 このルーティンに戦術的な意味合いが薄いことも、昨今では悩みどころとなってきた。日々の戦いの中で出た課題を確認し、練習で修正するのは当然のこと。チーム状態が良くなければなおさらだが、それでも名古屋のルーティンは変わらなかった。
 5月の連敗の最中で率直な意見交換が行われ、ようやく戦術確認程度のメニューが加わったが、練習量的には変わらない。例えば3連敗後の鹿島アントラーズ戦に向けた木曜日は、サッカーバレーを30分行ったのみだった。翌日はさすがに11対11の紅白戦を行ったが、この状況下ですらコンディショニング調整を主眼とするのは無策の誹(そし)りを免れない。
 監督がそうした選手たちへの信頼、つまり「100パーセントのコンディションで送り出せば、やってくれる」という考えを貫く一方で、当の選手たちはやはり解決策を求めている。

 リーグ第11節の横浜F・マリノス戦に向けた1週間のトレーニングでは、珍しく紅白戦で戦術確認をする姿が見られたが、選手たちの反応は上々だった。藤本は「こういう練習を続けて、その場しのぎにしないようにやっていきたい」と話し、小川佳純も「こういう練習がしたかった」と歓迎の様子だった。キャプテンの楢崎が「連敗を受けて監督もこうした練習をしてくれた。やらざるをえなかったんだけど。チーム状態が良ければその必要はなかったわけで、変えていかなければいけなかったということ」と残念そうな表情を浮かべたのは印象的で、チーム状態の悪さは推して知るべし。

 しかし、これが監督のやり方である以上、選手たちは逆に覚悟して試合に臨んでいる。「監督がいつも言うんですけど、すべては自分たち次第ということ」という小川の言葉は選手たちの総意だ。何を言われようと、このやり方で結果を出す。ストイコビッチ監督の頑固なまでの信頼に対し、選手たちは必死で応えようとしている。

6月の中断期が挽回のチャンス

 では具体的に、ここからの名古屋の解決策は何かと言われれば、すべては得点に集約される。悪循環を断ち切るには勝利が必要で、そのためには得点が不可欠だからだ。また、前述したように名古屋は現状で内容面にそこまでの問題はなく、相手を押し込んでいる時間にゴールネットを揺らせないことがカウンターの呼び水ともなっている。

 そもそもストイコビッチ監督の名古屋は攻撃が循環しているときにこそ最大の守備力を発揮する傾向があり、自分たちが主導権を握りさえすれば、強固な守備を築ける実績は過去のシーズンを振り返るまでもない。楢崎は言う。「ウチはどう考えても攻撃のためにこのポジションを取っている。うまく攻められれば相手のカウンターのリスクも減る。最近の失点にしても、守備の際の止め方もそうだけど、原因を探っていくと自分たちがボールを持っているところから始まっている」。
 得点が取れれば守備が安定し、追加点を奪うことができ、勝利につながる。そうなれば練習の効果も上がり、チームは好循環の波に乗る。いかにして得点をできるだけ多く奪えるか。名古屋が選ぶべき道は、明確ではある。

 5月の公式戦でほぼすべて負けてしまった名古屋だが、まだリーグにおける挽回のチャンスは残されている。6月の中断期については、過去5年間を振り返っても良いイメージが強い。
 スロースターターと呼ばれるストイコビッチ監督の名古屋は序盤から好調を維持することは少なく、そこで出た課題を6月のミニキャンプで解消し、後半戦の巻き返しにつなげてきた。優勝した10年、怒涛(どとう)の巻き返しから2位でフィニッシュした11年がまさにそうで、7位とあまり良いイメージのない昨季ですら、田口泰士というニュースターを生み出すきっかけとなった。

 クラブ史上最長の6年目を戦う指揮官と選手たちが、この6月でどのように攻撃を整備し、魅力を取り戻してリーグ再開を迎えるのか。今は指揮官の手腕、そして選手たちの“反発力”に、期待するしかない。

<了>

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著者プロフィール

1979年生まれ。雑誌社勤務ののち、2015年よりフリーランスに。以来、有料ウェブマガジン『赤鯱新報』はじめ、名古屋グランパスの取材と愛知を中心とした東海地方のサッカー取材をライフワークとする日々。

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